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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(前編)-12

盗賊リックは、同郷の幼なじみでもあるふたりが不可解な死を遂げた事実を受け入れるまで、盗賊ビリーを見つめたまま何も考えられなくなっていた。
アジトにシャンリーを連れ込んだ直後から、盗賊リックには記憶がない。
気がついたら牢部屋のようなところで全裸で吊るされていて、シャンリーに目隠しをされた。

(アジトが荒らされていた? ホセとデニスが死んだ? どういうことだ?)

盗賊ビリーが、嘘をついているようには見えなかった。

「こちらのお嬢様に、リックを引き渡すと言われてな。俺がひとりで邸宅に来てみたってわけだ。アジトにあった金目の物は、もう金に変えたのか?」
「し、知らねえ。ビリーさん、俺じゃねえよ!」
「……って言ってるぞ、お嬢様」
「えーっ、私もわからなーい」

シャンリーは妖しい微笑を浮かべて、盗賊リックの瞳を見つめた。
さらに、そばに近づいて回りこみ、盗賊リックの背中をそっと撫でた。
盗賊リックはうなだれた。

「俺は嘘をついてねぇ、ホセとデニスのことも俺はやってねぇ。俺は嘘をついてねぇ、噂も、貯めてる金の話も本当だ、俺は嘘をついてねぇ、俺は嘘をついてねぇ、俺は嘘をついてねぇ、俺は……」
「だそうよ、ビリー。貴方たちが貯めたお金は、商人のエラルドって人が隠しているのかしら?」

盗賊ビリーは知っている。盗賊たちが逃亡資金に貯めた金を、エラルドは奴隷売買の元手として流用している。
奴隷が取引されたら、すぐに利益が出て補填されているので流用されていて、一時的に目減りしていることを、上納金として金を集めている手下たちは裏事情を知らない。
奴隷売買には元手がかかる。しかし、貴族相手の商売で利益も大きい。

「リックに何をした?」
「知ってることを正直に話す気になったようね。私は背中を撫でただけ」
「嘘だ!」

シャンリーが盗賊ビリーにふれようと手をのばしてきたので、ビリーは危険を感じて後退りをした。

(なんで、こんな小娘が怖いと感じるんだ。しかし、何かおかしい)

「そんなに怯えなくても、優しくしてあげるわ、ふふっ」
「うわぁぁ、く、来るな!」

盗賊リックの遺体らしいものは、遊郭の焼け跡から発見されたと、盗賊ビリーから、闇商人エラルドは報告を受けた。

「顔は潰されていましたが、おそらく、リックだと思われます」

女伯爵シャンリーの邸宅に暮らす少女に盗賊ビリーは会いに行ったことを、エラルドに報告しなかった。

「貴方の望みを叶えてあげる。そのかわり、しばらく私の手伝いをしてもらう。いいわね?」

媚薬の香が焚かれた寝室で盗賊ビリーはうなずきながら、美少女の姿のシャンリーに、勃起しっぱなしになっている逸物を撫でられていた。
盗賊ビリーの願いは、闇商人エラルドの妻リタを思いっきり犯して、苦しい恋の想いから逃れたいというものだった。
そばにいるのに、手が出せないから余計に焦がれているのだと、盗賊ビリーは思っていた。

盗賊リックの顔を潰した遺体を遊郭の焼け跡に運んだのは、盗賊ビリーである。遺体を運んだことも、はっきり覚えていない。なんとなく気になって手下たちと探索へ行ってみたら、ひどい損傷した遺体を見つけた。

盗賊ビリーは、闇商人エラルドと妻のリタに首を切り裂かれた遺体となって、酒場の裏路地に放り出された。

闇商人エラルドと妻のリタは、シャンリーの下僕とされてしまった。
こうしてシャンリーは活動するための資金源を得た。

読み取ったり聞き出した他人の心につけこみ、絶望させて支配するのは、蛇神祭祀書に記録されていた神官たちの手口であった。信者だけでなく、贄にする巫女たちの心を蝕み、支配していく。
人をカエル人のように変化させて服従させる呪術はないかと考えて、蛇神祭祀書をめくった結果、他人を下僕にする手口が頭のなかに浮かんできた。
他人の肌にふれて思考を読み取る術や手にふれているふたりの思考や感覚をつなく術などをシャンリーは習得した。
他人の心の記憶を一緒に分かち合い、時には苦しみや悲しみも感じて涙を流す賢者マキシミリアンやセレスティーヌの行う秘術の領域までは遠く及ばない。
慈しみの心が愛と豊穣の女神ラーナにはあり、その加護による影響力を、過去の蛇神の女神官たちやシャンリーは恩恵として受けることができなかった。

山の巫女であるマリカなどは戦いで傷ついた異形のカエル人まで憐れむ。マリカほどの力と心があれば、カエル人を守護獣として使役できるかもしれない。

シャンリーは、ストラウク伯爵領で山の力の奇問遁甲の陣の呪術の罠にかかり、マリカの女神ラーナに恩恵を受ける慈愛の心や遠い過去の火の神の神官が用いた守護獣の使役にまで通じる心に関する呪術の知識を得ていることに、まったく気づいていない。

蛇神祭祀書をマリカやヘレーネが手にしていたら、魔導書として人の心を支配する秘術を伝えずに、世界に干渉する秘術を授けたかもしれない。
ただし、アルテリスが手に取って読んだとしたら顔を赤らめて、放り出すかもしれないが。

騎士ガルドと令嬢ソフィアは、同性愛のフェルベーク伯爵領から逃げ出して、バーデルの都へ、シャンリーより先に訪れていた。
ソフィアは旅のあいだ、女性の姿では襲われるかもしれないと思い、男装を心がけていた。それが逆に、フェルベーク伯爵領では美青年として熱い視線を浴びることになった。またガルドも筋肉好きの男色家から欲情した視線を浴びることになり、ソフィアはガルドが同性愛に興味を持つことを警戒して、闘技場の大会でガルドが優勝すると、大会の賞金や闘技場の賭けの儲けを持って、あまり人と関わらないうちにバーデルの都へ急いて向かった。

バーデルの都も変わっていく。
フェルベーク伯爵領の貴族が美少年も奴隷市場のオークションで取引されるように、闇商人エラルドや他の奴隷商人たちと密かに交渉し続けていた。


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