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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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レナードの覚醒(前編)-12

「貴方の肩のあたりに腰を下ろして、足をぶらぶらさせて、笑顔でこちらを見ているその小さなものは何ですか?」

ストラウク伯爵はたしかに精霊の気配を感じていた。客が来たのでレナードのそばから離れて近くへのぞきに来ているのは気配から察していた。

「あれっ、もしかして、ふたりとも見えるの?」

アルテリスはそう言って、精霊に手招きして呼び手のひらの上に乗せた。

「リーナから聞いてないかな。リーナとあたいが焼かれた村に行った時に、リーナか亡くなった人にお祈りしたら、この子たちが出てきたんだ。レナードを見つけてくれたのも、この子たちだよ」

精霊はアルテリスの手のひらの上で、セレスティーヌにぺこりと頭を下げると、恥ずかしいのか居間から飛び去って逃げていった。

「うーん、亡霊なのかな、でも恨みとか憎しみは感じないけど」

アルテリスから、リーナと別れたあと精霊と一緒に旅をしてきた話を聞いてマキシミリアンはセレスティーヌに言った。

「私もたまに視えることがあるが、おふたりはアルテリスと同じように、あれが視えるのですな」
「アルテリスの話を聞くと亡霊のようではありますが、もっと精霊に近いような感じがします」

マキシミリアンはストラウク伯爵にそう言った。マリカはまばたきを繰り返して驚いていた。

「マリカ、私たち以外にも見えない力を使う人たちがいても不思議ではない。それに、セレスティーヌ様はエルフ族なのだとおっしゃる。私も古文書でしか知らなかったが、大陸にはいろいろな種族の人がいるものだ。私も驚いているよ」

テスティーノ伯爵からレナードをアルテリスが幌馬車に乗せ、見つからないように犬頭のマスクをかぶせ、獣人族に見せかけ匿いながら伯爵領へ連れて来た事情を聞いて、賢者マキシミリアンとセレスティーヌが、困惑して顔を見合せた。

「ストラウク伯爵、レナードの容態は、それほど悪い状態なのですか?」
「何をされたらあんなふうになるものなのか。とりあえず見てもらったほうが説明するより早い」

セレスティーヌにストラウク伯爵が答える。アルテリス、マリカ、テスティーノ伯爵の表情が暗い面持ちになっていた。

「ああ、君たちはレナードを護ってくれているんだね」

マキシミリアンは、レナードの周囲にいる精霊たちに話しかけた。
レナードは椅子に腰を下ろしたまま、虚ろな目で人形のようにじっとしていた。

「心が闇に沈みこんでいるような」
「マキシミリアン、この子たち、レナードに呼びかけると返事はあるって!」
「それなら、まだ可能性はあるかな」

マキシミリアンは、レナードの虚ろな目をのぞき込みながらセレスティーヌに言った。セレスティーヌは精霊たちの声を聞いて、マキシミリアンに伝えた。

「公爵様、レナードはなんとかなりそうなのか?」
「リーナちゃんなら、なんとかできるかもしれない。僕らがなんとかしようとして、レナードに心を合わせようとすると逆に危険だと思う」
「心を合わせる?」

アルテリスが首をかしげた。
賢者マキシミリアンの意見を聞いたストラウク伯爵は、静かにうなずいた。

「アルテリス、隣で眠っている人の夢と同じ夢をみることがある。心が重なることで起きるのだが、レナードが夢から覚めない状態にあるとすれば、どんな夢をみていると思う?」
「スト様、そんなのわからないよ」
「マキシミリアン様は、レナードと心を重ねて、自分の思い浮かべたものをレナードに思い浮かばせる方法は、危険だと言っておられる」

レナードの思い浮かべているものが流れ込んできて、レナードの感情を動かすはずが、術者の感情のほうが影響されて虚脱感にとらわれかねない。

「この子たちもレナードの心に入って体は動かすことはできるけど、レナード自身が考えたり、感情を出したりはうまくできないって、でも、空腹や眠気とか痛みとか、レナードは話したりしないけど感じているみたい」
「うん、完全に心が無くなったわけじゃないというわけだね」

レナードの状態を把握したマキシミリアンとセレスティーヌに、アルテリスはレナードがあんな状態なのは申し訳ない気がすると沈んだ声で言った。

「君たちのおかげで、レナードの心はまだ生きている。リーナちゃんなら、レナードの感情を呼び覚ませるかもしれないのはなぜか、とにかく戻って話そう」

全員で居間に戻ってきた。マリカの頭の上に乗って、ひとりだけ精霊がマキシミリアンの話を聞いて仲間に伝えるために居間についてきていた。

リーナが錫杖に心が封じ込められて、心には感情はあるが身体ではなく物に宿ったので、感応力がある者がリーナと心を重ねてふれあうことで、気持ちを伝えあっていた。
さらに錬成され変化するたびにリーナの心は恐怖や絶望から、他の人の愛情を共感していくことで克服していった。
レナードの心は恐怖、絶望、虚脱感が強い。けれど、リーナの心ならば蛇神の異界の淫獄めぐりをして、それ以上の恐怖や絶望や虚脱感を感じた体験がある。
さらにリーナは助けられた人たちの愛情を共感して絶望や悲しみを越えてきたので、レナードの心とふれあっても闇に飲み込まれない強さがあると、マキシミリアンとセレスティーヌは語った。

「リーナちゃんは錫杖、石、樹木の精霊と新しい姿に錬成や召喚で変わっていった。レナードも、見た目は変わっていないけれど、戻って来ようとしている。いや、心は強く変わろうとしている」

暴行されて殺され怨霊になりかけていた亡霊から、護りのフェアリーに変化した小人は、マキシミリアンとセレスティーヌの話を理解した。たしかに祈りを捧げる僧侶リーナの心にふれ変化したものだったからである。

「公爵様、心は変わっていくって話は、あたしでもわかる気がするよ」

アルテリスがテスティーノ伯爵を見つめた。テスティーノ伯爵も、アルテリスを見つめ返し微笑む。


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