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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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レナードの覚醒(前編)-11

テスティーノ伯爵に、さっそくレアンドロ王が用意してくれた外交官の証書をマキシミリアンは見せた。

「マキシミリアン公爵様とセレスティーヌ様ですか。私はテスティーノと申します。ストラウク伯爵を訪ねて来られたのですかな?」

おだやかな笑顔とやわらかい物腰で話すテスティーノ伯爵に、セレスティーヌが人を探すために来たことを話した。

「ゼルキス王国のクリフトフ将軍のご子息のレナードという者を、ご存知ありませんか?」
「えっ、なんだって?」

アルテリスが驚いた声を上げて、セレスティーヌの顔をまじまじと見つめた。

「誰を訪ねて来られたと?」

テスティーノ伯爵が、マキシミリアンとセレスティーヌに聞き返した。

「ゼルキス王国のハンターのレナードという若者を、僕らは探しています」
「なんだって、あんたたち、何者だ、どうしてここがわかった!」

テスティーノ伯爵がアルテリスを止めるのが間に合わず、マキシミリアンのこめかみを狙って鋭い蹴りが放たれた。

「ふぅ、危なかった」

マキシミリアンが身を咄嗟に反らし、ぎりぎりの間合いでアルテリスの蹴りの爪先を避けた。

「なぜ、蹴るのですか?」

セレスティーヌがアルテリスに淡々とした口調で言った。表情から微笑が消えていた。

「ちょっと待て、アルテリス」
「伯爵様、この人、あたしの蹴りを避けた!」

賢者マキシミリアンは赤髪に狐耳の獣人娘がアルテリスと呼ばれたのを聞いて、
ハッとして勝ち気な感じの美貌を見つめて言った。

「君はアルテリスというのか。もしかして、リーナちゃんの友達のアルテリスじゃないか?」
「リーナちゃんって、あんた、僧侶のリーナを知ってるのかい!」
「やっぱりそうか。狐耳に赤い髪の美人とは聞いていたけど、喧嘩も強いとはリーナちゃんは言ってなかったな」
「ああ、貴女がアルテリス。リーナちゃんが辺境でゼルキス王国に来る時に、ニアキス丘陵で出会った獣人娘ですね」

マキシミリアンがまた攻撃されたら、本気で魔法で応戦しようと思っていたセレスティーヌの表情に微笑が戻っていた。

「伯爵様、このふたり、本当にリーナのことを知ってるみたいだ」
「うわっ、すいません、公爵様、アルテリスも謝れ」
「すいませんでした」

風が吹いて桜の花びらが舞った。

「そこにあるのが、私の前妻の墓です。そして、私の今の伴侶は、このアルテリス。妻の無礼をお詫び致します」

テスティーノ伯爵がセレスティーヌにも頭を下げた。テスティーノ伯爵は、ゼルキス王国の王族にマキシミリアン公爵という国王の兄にあたる人物がいることをアルテリスの蹴りを見事に避けたのを見て、ようやく思い出した。
賢者マキシミリアン。ゼルキス王国の王位を弟に譲り、旅をしていて王国へ戻らない伯爵。

「その祈りかたは?」
「このあたりの者は、昔からこうして手を合わせて祈るのです」
「大陸の東方にあるシャーアン王国の人たちも、同じ祈りかたをしますよ」

セレスティーヌも、マキシミリアンの真似をして、マリカの母親のアカネの墓に手を合わせて祈った。

「おーい、マリカ、お客さんだぞっ!」

アルテリスに玄関で呼ばれた。
テスティーノ伯爵から娘だと紹介され、マキシミリアンやセレスティーヌに緊張しながらマリカは挨拶した。
ふたりの見えない力を感じた。

セレスティーヌは、マリカの頭の上に乗っている翅のある小人が気になって、マキシミリアンに小声で聞いた。
ふたりには護りの精霊が視えていた。

「マキシミリアン、あれは何?」
「うん、何だろうな。ただ悪いものじゃない感じだが。初めて見るものだ」
「とても小さくて可愛いわね」

ストラウク伯爵は、マキシミリアンとセレスティーヌを見て目を細めて笑った。
蓬髪の痩せた初老のストラウク伯爵が着ている作務衣を見て、マキシミリアンは気になって言った。

「その服は動きやすそうでいいですね」
「なんなら着てみますか。マリカ、伯爵様の体に合う大きさのものも、たしかあるはずだ」

マキシミリアンは建物や着物、手を合わせる祈り方などが大陸東方のものによく似ていると、ストラウク伯爵に話した。ストラウク伯爵は、マキシミリアンの話を聞いてターレン王国が建国した昔に、渡ってきてストラウク伯爵領へ住み着いたのが、大陸東方の人たちだったのではないかと思った。

「ここはターレン王国の僻地で、村人たちがゆったり暮らしているところでしてな、領主といっても村長たちの相談役みたいなもので、貴族らしい貴族はおりません。ゼルキス王国と聞いても知らぬ村人もいるほどです。村人たちは山や湖のほとりで暮らし、自分たちの生まれた土地から出ることなく一生を終える者も多いのです」

ストラウク伯爵の説明を聞きながら、マリカの淹れてくれた薬草茶を、湯飲みでセレスティーヌは飲んでいた。

「このカップは手になじむ感じで、中のお茶のぬくもりも伝わってきて素敵ですね。それにお茶もおいしいです」
「湯飲みや茶も気に入ってもらえたようでうれしいですな」
「セレスティーヌ、そのカップは湯飲みというものだよ。泥をこねて窯で焼いて作る。これは、ストラウク伯爵が作られたものですか?」
「おや、わかりますか?」
「僕は作ったことがありませんが、ドワーフ族のロエルという細工師の友人から外にも皿や壺を作る技があると聞いたことがあります」
「私など見よう見まねの素人です。ドワーフ族が今もいるのですかな?」
「はい、ただし僕もひとりしか知りません。昔、平原のあたりで奴隷狩りが行われていた時代に数を減ったようです」
「機会があればぜひ会ってみたいものですな。ドワーフ族の細工師という人に」

ストラウク伯爵の肩のあたりを見つめた賢者マキシミリアンは聞いてみた。セレスティーヌも気になってずっと見つめていた。


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