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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(中編)-9

「青い汁が出た。これは食べられない」

アルテリスが食用の茸も裂いて見比べてみて、毒茸を放り投げた。

「茸の採取はザイフェルトがいれば、いろいろな茸が集められるな」

テスティーノ伯爵とアルテリスは見分けのつく茸だけを集めていた。ザイフェルトは茸の見分けが得意だった。
ベルツ伯爵領の森林にある茸と同じものは、子供の頃から採取していたので見分けられる。

「ザイフェルトは狸みたいだ。狸がかじった半分になった茸は、食べられるやつだもんな!」
「たしかに狸は茸を見分けて食べる」

ザイフェルトは、アルテリスが狸がかじった茸を見分けられることのほうがすごいと思っている。歯形で見分けられるのかもしれないと思い、まじまじと見てみるが、よくわからない。
茸の採取をやめて、山芋のつるにある葉の部分にできる球芽をアルテリスは集めることにしたようだった。山芋と同じような味で生でも食べられる実で、これは蒸して酒のつまみになる。
先のぐるぐると巻いた白い綿毛に包まれている山菜は、沢沿いの湿り気のある足場の悪い急斜面に群生しているが、アルテリスは見つけると足を滑らすことなく器用に集めてくる。
ぎさぎさの葉と茎のあいだに茶色の小さなこぶができる山菜は、葉を取り除き、茎を湯がいて柔らかくして食べる。とろりとした食感があり、アルテリスはこの山菜も酒のつまみになるとたくさん集めていた。

「うわぁ、すご〜い、いっぱい集めてきましたねっ!」

マリカが採取してきた山菜、茸、木の実を見てストラウク伯爵を呼びに行った。

「ほほう、これはまあ、たくさん集めてきたな。これなら酒のつまみには困ることはなさそうだ」
「スト様も、マリカも、フリーデも今度は全員で山に採取に行こうよ!」
「山で茸を焼いて食うのも、木の実をつまむのも旨いからな」

ストラウク伯爵が生で食べられる木の実をひと粒、つまみ食いをして、フリーデにも口を開けさせて放り込む。
自分だけつまみ食いするとマリカに文句を言われてしまうので、フリーデにもつまみ食いさせた。

「どうだね。山の木の実も旨かろう?」
「あら、ふふっ、甘酸っぱくて、これは口の中がさっぱりしていいですね」

このまま庭に背負い籠を置いておくと、どんどんストラウク伯爵につまみ食いされそうなのでマリカとザイフェルトは一緒に倉庫に運び込んだ。
干し肉、干し魚、大甕に入った乳酒、剥いだ兎の毛皮、ストラウク伯爵が作った薬など、いろいろな物が、薄暗い倉庫の中に並んでいる。

「マリカ、ここはネズミに中の物が食われたりしないのか?」

ザイフェルトの暮らしていた村では食べ物があるところにはネズミが侵入してきて、小麦の粉を置いてあるだけでも、袋に穴を開けてしまう。

「ネズミ避けの術がかけてあるらしいです。あと、小鳥や獣にも別に餌場を作ってあるので、ネズミもそこから食べ物をもらっているので、ここに無理して食べに来て驚かされるのは避けるようです」
「驚かされる?」
「ネズミには倉庫の建物は大きなネコに感じるらしいですよ」

倉庫の壁や天井に呪符らしきものが貼ってあるのは、ネズミ対策の幻術の仕掛けらしい。
晩酌をしているほろ酔いのストラウク伯爵に、幻術についてザイフェルトが聞いてみた。

「あると思えば感じる。無いと思えば消えてしまう。私たちの信じている幻術で身近なものは、心だな」
「心ですか?」
「そうだ。ネズミの心には、ネコがおそろしいという感情がある。だから、倉庫に侵入するときはよほど餓えて困ってしまっている時だけだな。山には食べ物もあるし、巣にも私たちと同じように貯めこんでいる。ネズミ避けを破って倉庫に食べに来たら分けてやってもよい。ネコに食われてしまうかもしれない恐ろしさより、餓えて死ぬことが恐ろしくて、捨て身でやって来る。ところが人は、ネズミほど単純ではない。呪術には、願かけをして、術者が餓死するまで食べ物を口にしないものなどもある。死をネズミさえ恐れるのに、人は死の恐ろしさよりも強い感情で、願いを叶えようとする」
「餓死して願いが叶うのですか?」
「みちづれにする呪詛はそのようにすると伝えられている。惚れた男が別の娘と逃げた。行方はわからず、呪詛をかけて逃げた娘から男を殺して奪い返そうとした女の話が残されている」
「スト様、おそろしい話ですね」
「フリーデ、ふたりの女から惚れられていて、その女たちがとても仲が悪かったら、男はどうしたら安心して暮らせると思うかね?」

ザイフェルトとフリーデが、考えたことがなかった内容の質問に思わず顔を見合せた。

「んー、喧嘩させてみれば?」

アルテリスが話を聞いていて、あっさり答えた。

「アルテリス、そうなったら勝ったほうが男と暮らすのか?」
「伯爵様はそうするのかい?」

テスティーノ伯爵は、アルテリスに質問されて困っていた。

「マリカ、喧嘩するふたりの女を見て、男が恐ろしくなって、ふたりとも捨てて逃げ出すかもしれんな」

ストラウク伯爵はそう言って、酒をぐいっと呑んだ。

「スト様、それでは喧嘩した女たちが、かわいそう」

マリカが言うと、それを聞いたアルテリスが笑い出した。

「マリカ、どっちの女がいいか、もともと決められない男なんだから、逃げ出すかもよ」
「ふむ、テスティーノ、決められない男が悪いということになってしまうぞ」
「兄者、どちらも嫁にして仲良く暮らしたという昔話はないんですか?」
「そう考えると国王は大変だな、テスティーノ。後宮に側室がたくさんいるのだから」
「なんだい、ふたりはどちらとも嫁にして暮らす気か。ザイフェルトはどう思うんだい?」

アルテリスはザイフェルトに言った。

「もしも喧嘩して負けたほうと一緒に暮らすとふたりに言えば、ふたりは同じ男に惚れているのだから、もう喧嘩をしなくなるかもしれない」


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