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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(前編)-10

村を占領され男たちの好き放題に犯されながら、心を殺して耐えていた。その悲しみや怨みを、僧侶リーナは祈り慰めたのだった。

「もう怖くないよ」
「だれも苛めないよ」
「泣かないで」

亡霊たちはフリーデの心の中の絶望した悲しみに囁き続けた。それは僧侶リーナが怨霊となりかけていた亡霊たちに、思念で呼びかけた時の心の声と同じものだった。
ザイフェルトがフリーデを愛していて、その悲しみを想像しても、実際に体験した亡霊たちほど理解することができない絶望の闇がある。しかし、護りの精霊となった亡霊たちは囁き続けた。

「フリーデの心の中にある絶望の氷を溶かすには、ザイフェルトの熱い愛情と優しさは必要なものだ。だが。ザイフェルトの良いところのはずの絶望しない心の強さゆえに、ザイフェルトは他人の絶望をまだ半分も理解できぬ。フリーデは、ザイフェルトを傷つけ悲しませないように、心の中にある絶望を伝えるのをためらい、隠しているのではないか?」

マリカから護りの精霊の囁きについて聞いたストラウク伯爵は、フリーデに書庫の整理の手伝いをさせながら話し合うことにした。

「ザイフェルトが私に優しくしてくれるほど、酷いことを受け入れた自分の心が醜く憎いように思うことがあります。快楽に身をゆだねてしまえば、もう何も考えたくない、ただ泣いて身を相手にゆだねてしまったこともあります。快感は残酷です。私はザイフェルトではない人に強引に体を求められても、快感を感じるでしょう」
「それをザイフェルトと話し合ったことはあるかね?」
「ありません。ザイフェルトは、私以外の女性との交わりを知りません。私と結婚するまで童貞でした。私との交わりが快感のすべてだと信じ切っています。でも、ザイフェルトが他の女性と交わるのも、他の女性との交わりと私との交わりをくらべるのも嫌なのです」
「それは他の女性でも快感があるとザイフェルトが知って、自分をもう愛さなくなるのではないかと心配だからかね?」

ストラウク伯爵はフリーデの心に隠された不安、そして嫉妬心にふれた。

「それは私が、ザイフェルトの愛情を信じていないように思われるかもしれません。私には自信がありません」
「ザイフェルトがベルツ伯爵領から放逐されて、処刑は免れたが生きて一生会えないと思った時、伴侶のいないつらさを味わったのだね」

ベルツ伯爵はテスティーノ伯爵が、カルヴィーノやマリカの母親であるアカネを失った時の話をフリーデに聞かせることにした。

「フリーデ、テスティーノと少し話してみなさい。テスティーノは、伴侶を失ったあと、アルテリスと出会うまでは頑なに新しい伴侶を求めることを拒んできた男だ。私よりかは心に響くことを話してくれるだろう。約束しよう、ザイフェルトには、ここでフリーデと話したことは内緒にしておくよ。フリーデが自分の心を許せないうちは、ザイフェルトとは本当の伴侶になれない。私はフリーデの心を許す。本当の悦びをフリーデはまだ知らないのだから。いいかね、テスティーノと話すと約束できるかな?」
「スト様、ずるいですわ。私が約束をしなければ、ザイフェルトに言わない約束もなしになさるつもりですね」
「フリーデ、レナードの護りの精霊たちはとても心配している。彼女たちは生きられなかったが、フリーデには生きて幸せになってほしいようだ。私はずるい大人だが、自分だけでどうにもできない時には、テスティーノという頼れる親友がいることを知っている。ザイフェルトやフリーデも私は親友だと思っているよ」
「スト様……ありがとう……ござ……い……」
「あ〜、いかんな。マリカに、フリーデを泣かせたと叱られる。落ちついたら書庫から出てきて、マリカの手伝いをしておくれ」

ストラウク伯爵は、泣き出したフリーデの頭を優しく撫でた。
フリーデが気持ちが落ちつくまで、書庫でひとりにしておくことにした。
レナードの寝室にストラウク伯爵はゆっくりと歩いてきた。心配してフリーデの頭に乗ってついてきていた精霊を手に乗せてきた。
姿は見えないが、気配は感じる。

「心配はいらんよ。フリーデは自分に厳しい分だけ、他人にも同じものを求めてしまっているだけだからね」

ストラウク伯爵は、椅子に座っているレナードと、隠れているらしい精霊たちに話しかけてやった。

「スト様は、精霊たちともお話できるのですか?」
「話してみたいものだな。話しかけてみたが、ちゃんと話を聞いてくれたかどうかわからんよ。マリカ、お茶を淹れてくれないか?」

レナードの寝室の前にマリカが来て、部屋に入らずにストラウク伯爵が出てくるのを廊下で待っていた。

精霊が心配してフリーデのそばに飛んでいると、ストラウク伯爵はぶつかりそうな気がして、何もないところで避けるような動きをすることになる。
フリーデは精霊の気配を感じないので、不思議そうな顔をされるのである。

(やれやれ、これで精霊たちが落ち着いてくれるといいのだが)

テスティーノ伯爵が、フリーデを夜の散歩に誘った。

「星空がきれいだと思わないか?」

テスティーノ伯爵はそのあと寒くないかと、自分の羽織っていたマントをフリーデの肩にかけた。

「あの、伯爵様は平気なのですか?」
「体の鍛えかたがちがうものでね」

ストラウク伯爵の山の家から、しばらく歩きながら話をした。

「これがアカネの墓だ。ここから見る景色がいいから死んだら、ここに墓を作ってほしいと言われた。私は毎日墓参りができる自分の伯爵領にアカネの墓を作りたかったが、死んでも嫌と言われた」

墓石が乗せられていて、石には花が彫られていた。アカネが好きな桜の花で墓は桜の樹の根元に作られていた。

「アカネとの思い出は、今でもすぐに思い出せる。アルテリスはアカネのことを忘れたらダメだと言った。過去にアカネを愛した私がいたから、今の私がいるのだからと」


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