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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(中編)-1

テスティーノ伯爵は伴侶のアカネを失ったあとも、自分の愛したアカネの思い出とずっと一緒に生きている。本当はもう死んで、ふれることもできない存在になっているのはわかっているのに。
テスティーノ伯爵の心とアカネの思い出はひとつになっている。墓の前でテスティーノ伯爵がアカネについて語る時、ふと樹のうしろからアカネが姿をあらわすような気がするほど、テスティーノ伯爵の心の中でアカネが生き続けているのをフリーデは感じた。

(ザイフェルトは、私が亡くなったあとも、これほど思ってくれるかしら)

「アカネは、カルヴィーノとマリカを私に残してくれた。ザイフェルトが、カルヴィーノは私に似ていると言っていた。マリカは母親似で、この墓のそばで、親より歳上の兄者の伴侶になって暮らしている。マリカの気性はアカネに似て、こうと決めたら絶対にゆずらないところがある。普段の様子からではわからないところまで、アカネにそっくりだ」
「アルテリスさんは、前妻のアカネさんの話をすると妬いたりしませんか?」
「アルテリスによると、私はアカネの死を経験したことで、伴侶のことを大切に思える気持ちが強い男になったらしい。若い頃の私だったら、アルテリスは惚れていないと言っていたよ」

フリーデはテスティーノ伯爵の前妻アカネの墓の前で話を聞いて、何かわかった気がした。
フリーデは子爵メルケルに強姦された。ザイフェルトの命乞いの為にベルツ伯爵の逸物をしゃぶらされた。子爵シュレーゲルの欲情にほだされて体を許してしまった。それをベルツ伯爵から疎まれて追放され、盗賊の首領の愛人にされてしまい体を弄ばれた。
こうした経験をしてきたことで、自分が淫らで愚かなことを思い知らされた。情けなくて、なぜ死ななかったのかと悔やんだ。
フリーデは再会したザイフェルトと肌を合わせ愛されるたびに、心のどこかで小さな棘が刺さったような、チクッと胸が痛むような引け目を感じていた。
しかし、だからこそ、ザイフェルトに対しての強い想いがある。伴侶のことを大切に思える気持ち。それだけはこれから何が起きても、たとえザイフェルトからフリーデの愚かさに愛想を尽かし軽蔑され、ザイフェルトが別の女性を愛したとしても、フリーデの胸の底にあるザイフェルトを愛している想いだけは、絶対に変わらないと確信した。

(ああ、ザイフェルトがどう思うかじゃなかった。私が望みはそれでも、ただ愛し続けたいということ。アルテリスさんは伯爵様を愛すると決めて、自分のありのままの気持ちで、真っ直ぐに行動している。とても純粋な人。私もその純粋さを見習わないといけませんね)

「おっ、帰ってきた。伯爵様、心の中のアカネさんとたくさん会えた?」
「ああ、フリーデにアカネとの思い出を聞いてもらったよ」
「フリーデ、悪かったね。伯爵様はアカネさんの話を始めると止まらないから。あたしがついていって、ちゃんと話を聞いてあげないといけないんだけどさ」
「いいお話をたくさん聞かせていただきました」
「むむっ、伯爵様があたしの余計なことまでフリーデに言ってないか心配。フリーデ、夜風は寒かったんじゃない。一緒に温泉に入るよ!」

ザイフェルトは、ほろ酔いのストラウク伯爵と武術の話に夢中な様子だった。

「フリーデ、おかえり。マリカのお母さんのお墓に行ってきたんだろう。あの桜の樹は春になると、とてもきれいな花が咲くらしい」
「ザイフェルトもあそこに行ったことがあるんですか?」
「修行の帰りに伯爵様が寄ってから帰る日がある。だから一緒に行ったことがあるんだ」
「おーい、フリーデ、温泉に行くぞ!」

アルテリスがフリーデの背中にがばっと抱きついてきた。アルテリスも少し酒を呑んで酔っている。

テスティーノ伯爵が、フリーデとアルテリスと入れ替わりで座に加わる。

「父上も少しお酒を飲まれますか?」
「そうだな、少し呑むか」
「夜にお墓参りに行くなんて、寒かったでしょう?」
「マリカ、母上は星がきれい、月がきれいと言っては、夜に村からあの桜の樹まで、よく子供みたいにふたりで走って行ったものだよ。たまに夜に行くのも悪くないな」
「風邪をひくと大変ですから、ほどほどにして下さいね」

マリカが酒を注ぎながら笑顔で言った。マリカの声や表情にアカネの面影が重なる。テスティーノ伯爵は、マリカではなくアカネに注意されたような気がして、ぐいっと酒を呑んだ。

ストラウク伯爵は、書庫で苦しげに胸のうちを語ったフリーデとは、帰ってきたフリーデにちがった雰囲気を感じたのでほっとした。

「ザイフェルト、身構え、目の動き、手足の動きから相手の次の動きを読むことはできるだろう。しかし、アルテリスのように予想以上の速さや動きを加えられると防ぎきることは難しくないか?」
「はい、それで隙をつかれて投げられてしまいます」

ストラウク伯爵にザイフェルトは正直に答えた。アルテリスの素早さや動きの変化に慣れようと意識するほど、アルテリスはその裏を突いて動きに緩急をつけて惑わせてくる。

「度胸があって捨て身になって全力をぶつけていけるのは良い心がけだ。覚悟のない敵ならば、たじろぐこともある」

テスティーノ伯爵はザイフェルトの長所を、ストラウク伯爵に伝えることを忘れなかった。
ザイフェルトからすれば、10人以上の相手から喧嘩を売られ、殴り殺されないようにするには、それが最善策だったので身についてしまった癖だった。

「ザイフェルトとの手合わせを、アルテリスが嬉しがるわけだ」

ストラウク伯爵が、テスティーノ伯爵に言ってニヤリと笑った。

「アルテリスは、捨て身でかかってきてくれるのが嬉しいのだろうよ」
「それでも投げ転がされます」

ザイフェルトは妥協したくない。
相手に隙がある時だけ狙って全力を出すわけではない。
無駄な動きは、できるだけ減らしたい。全力を出しきるために。


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