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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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リーフェンシュタールの結婚(前編)-3

幌馬車の荷台側では、人妻フリーデがカルヴィーノとシナエルの仲が良さげな様子を見ながら、ため息をついていた。
これから裁きを受ける罪人の気分が、彼女の気分に近い。これから向かうリヒター伯爵領には、夫のザイフェルトと浮気相手の子爵シュレーゲルが来る。フリーデは二人とも好きなので、困ってしまっている。夫の地主ザイフェルトは、シュレーゲルの兄の子爵メルケルがフリーデを強引に犯したことに激怒して、子爵メルケルを殺害してしまった。子爵メルケルの父親のベルツ伯爵は、若い27歳の地主ザイフェルトを追放した。平民階級の者の貴族殺しは死罪。地主のザイフェルトは貴族と平民のどちらでもある中間の地主という立場であり、メルケルの所業にも問題があるので、ベルツ伯爵は貴族殺しの事件を隠蔽してザイフェルトを追放処分とした。おたがい貴族階級の者ならば、決闘でどちらか死亡してもおたがい承知で生き残ったほうが正義ということで、相手を殺してしまっても罪に問われない。
そんな夫のザイフェルトが、殺害したメルケルの弟で15歳で子爵になったばかりのシュレーゲルと28歳のフリーデに夫が追放された未亡人として、ベルツ伯爵から夫の減刑の裏取引で一時的に女性の扱いを教えるという条件を受け入れ、関係を持ってしまったと知ったら、フリーデだけでなく、シュレーゲルやベルツ伯爵も殺そうと考えそうで怖い。
シュレーゲルはまだ15歳で、いずれはベルツ伯爵領を継ぐ立場の人物なのに、ベルツ伯爵から、ザイフェルトと同じように追放されたフリーデの探索を、カルヴィーノに依頼したという。
シュレーゲルは、まだ実感としてわかっていないのかもしれない。13歳も歳上の女性が見た目からこの先、どれだけシュレーゲルと同年代の女性と比べてどれだけ老いてしまうかということを。
今は惚れて夢中でも、シュレーゲルにフリーデは、今と変わらず愛し続けてもらえるとは思えない。ベルツ伯爵の後継者なのだから、他の伯爵領の若い御令嬢を妻として次の後継者を産ませて育てることになる。フリーデとの間に子が生まれても、フリーデは伯爵領から追放された身の上で、母子はベルツ伯爵領には住めず、どうすればいいか不安しかない。
ザイフェルトとフリーデの追放された二人でも、大人の父親と母親のふたりでなら、生まれた子供をなんとか守り育てられるかもしれない。母親と幼い子供のふたりでは、かなり不安である。
愛する妻の恨みを晴らすために復讐してくれた夫を、罪人として処刑されたくなかった。
まだ少年なのに歳上の女を愛していると慕ってくれるのは、とても愛しかった。
子爵メルケルに狙われて、犯された時に死ぬべきだったのだろうか。
追放されても、自分に再会したいと慕ってくれている夫を、また悲しませる妻は罪深いのではないだろうか。

「フリーデさん、お料理、手伝って!」
「え……あ、はい、わかりました」

もうこっそり死んでしまったほうがとフリーデが考えそうになっていると、シナエルが荷台へ馭者席から移ってきて声をかけた。

「シナエル、フリーデさんから目を離すな。でも、あれこれ詮索して困らせるなよ。これからどうするか、考える時間がフリーデさんには必要だから」

カルヴィーノがシナエルを、ブラウエル伯爵領のレルンブラエの街からついてくるのを許した理由。カルヴィーノひとりでは、フリーデを無事にリヒター伯爵領のトレスタの街まで連れて行くのが難しいと思ったからだとシナエルにもわかっていた。

リヒター伯爵領で、トレスタの街へ向かっていた出奔しているベルツ伯爵令嬢ヘレーネと、美丈夫ザイフェルトが再会していた。
ザイフェルトは追放され、モルガン男爵の暗殺を、ベルツ伯爵から妻のフリーデを連帯処刑にしない条件で引き受けた。モルガン男爵の暗殺に、学者モンテサントと騎士ガルドの軍にいる女剣士ソフィアの協力でザイフェルトは成功した。
ザイフェルトは、ベルツ伯爵領に残された人質の妻のフリーデをベルツ伯爵から取り返したい。そこで、モンテサントの弟子である子爵リーフェンシュタールとカルヴィーノに協力を頼むため、やはりトレスタの街へ向かっていた。
同郷のふたりが再会している頃、まだ少年のあどけなさが残る子爵シュレーゲルが、トレスタの街のリヒター伯爵の邸宅に暮らす子爵リーフェンシュタールを訪れていた。
カルヴィーノから、人妻フリーデの探索を引き受ける条件として、リヒター伯爵領へ行き、子爵リーフェンシュタールとフリーデ探索に対する報酬について、シュレーゲル自身が交渉をすることになっていたからである。
子爵シュレーゲル自身は、父親のベルツ伯爵からまだ支援や援助を受けている立場で、自分自身の資産があるわけではない。報酬といっても、腹ちがいの姉ヘレーネのように出奔して、フリーデと駆け落ちしてしまいたいと考えているので、将来、父親の伯爵領を継いでリヒター伯爵領に有利な条件で物資などの取引などの約束を報酬にすることもできない。
何を報酬として求められるのか、とても不安になっていた。しかし、すでに、シュレーゲルはカルヴィーノにフリーデの探索を依頼している。

15歳のシュレーゲルは、フリーデと同じ28歳の子爵リーフェンシュタールの持つ雰囲気に緊張していた。

「報酬とカルヴィーノは、君に言ったのか……私はカルヴィーノに君への伝言を頼んでおいたのだが、その様子では彼から私からの伝言は届いていないようだ」

リーフェンシュタールは、自分が15歳の頃、20歳の人物でもずいぶん大人に見えたことを思い出していた。
20歳の者と15歳では5年間しか年齢が離れていないのに、知識や経験がある人物の印象があった。
28歳になり、人は知識や経験、考え方によって同じ年齢の人間がいても中身はずいぶん差があることを知ってしまったことを残念に思っていた。15歳の頃には歳上というだけで、自分よりも相手は素晴らしい人間だと思い、敬うことを意識せずにできる。


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