預言者ヘレーネ-2
夜に山を降りるのは暗くて危ない、まだ服も乾いていないので泊まって行くようにすすめられた。その家には、母親と若い少女たちが3人で暮らしていた。
真夜中に、まだ童貞だった青年は母親と少女たちに体を求められた。
母親は30歳ぐらいだろう。娘たちは青年より年下らしかった。3人は青年はけがをしているから、じっとして身を任せていてくれていればいいと言った。
全身を3人に撫でられ、舌先で愛撫された。娘たちは青年の手の指を口にふくんで舐めたりして、ふざけて笑いあっていた。見ず知らずの優しげな女性3人に愛撫され、とてもとまどいながら、しかし力任せに拒めずにいた。
青年は娘たちの母親の乳房のはりつめたふくらみを揉んでほしいとせがまれ、おずおずと手をのばした。とても柔らかく弾力もあり、揉むたびに母親が娘たちの前だからか、声をこらえながらも息づかいが乱れていくのが青年にもわかった。
娘たちも青年と同じで、男性と交わるのは初めてだと聞かされた。
母親は青年の乳首を舐め転がしてから、自分や娘たちにも同じようにかわいがってほしいと言うと、唇を重ねてねっとりと舌を絡みつかせた。
青年は3人の乳房を愛撫して乳首を吸ったり舐め転がした。娘たちは青年の頭に抱きついて、鼻にかかったような甘いあえぎ声をこぼしていた。
このあと母親が青年の上にまたがり交わったあと、青年は疲れて眠り込んでしまった。
翌朝、青年は3人から恩返しがしたいと枕元に狸があらわれたことや、この山に青年が来て、けがをするから救助できるように、使われていない猟師の家があるからそこで暮らすように告げられたという話を聞かされることになった。
青年は3人を連れて村に帰り、3人を妻として暮らしたという昔話まである。
狸が3人の女性を青年に出会わせるために導いたのか、山暮らしの女性が山小屋に住みついていたのを、青年が連れかえったのか、山にはこうした不思議な話が伝えられて残されている。
ストラウク伯爵からヘレーネは、不思議な昔話をたくさん聞かされた。
ヘレーネがベルツ伯爵領から出奔したことで、ベルツ伯爵と子爵シュレーゲルがヘレーネを争い親子で殺し合う未来の惨事は回避された。
狸を落とし穴から助けてみたら、3人の美人を妻に迎えることになった昔話を酒場で聞いたヘレーネは、運命を変えたことで、父親のベルツ伯爵や腹ちがいの弟の子爵シュレーゲルに、どんな新しい未来の出来事が起きるのだろうと思った。
ストラウク伯爵は、ヘレーネが訪ねて来たことも自分たちにはわからないが何か意味があるのだと、一緒に暮らしているマリカに言った。
ヘレーネは感応力の弱い人間にはわからない力の流れをたどり、ストラウク伯爵領へやって来た。未来に起こる出来事を変更することで発生する運命の歪みは、預言者でなくても引き起すことがある。女伯爵となったシャンリーは、バーデルの都で虐殺を実行した。そうした残虐な出来事の運命の歪みは、ストラウク伯爵領の土地を死地と変えていく。
辺境地帯は死地となり、蛇神の異界へつながる門が開いて、障気は蛇神のしもべとして生成されている。
完全に自領が完全に死地となるとストラウク伯爵は考えてはいなかったが、ヘレーネから自分の母親には未来予知の力があったことや、使い魔として仔猫の姿のレチェを授けてくれたことなどもふくめて聞いたあとで、この土地には歪みの反動のような力が流れ込む場所だと知らされて、ならば異変が起きてもしかたがないと納得したのだった。
「ヘレーネ、なぜ障気が流れ込んで来るこの土地へ来たのかね。もし滞在していれば、男の子が産めない体になってしまうかもしれないというのに」
「実際に来てみて、ストラウク様の話をうかがってわかりました。生まれてくる子のなかには、巫女の資質がある女の子が生まれることがあるのですね?」
ヘレーネはストラウク伯爵の隣にいるマリカをチラッと見つめた。一瞬、ヘレーネとマリカの目が合う。
「私の母は私を産むためにベルツ伯爵と交わり、私を孕みました。いつ、どこで誰と交われば、私を孕むことができるか予知できていたからです。私が同じ予知の力を持つ子を産み育てるには、この土地の影響を利用すれば実現できるのではないでしょうか?」
「ヘレーネ、そうだとしても、残念ながら、この土地の男たちは、もう子作りには、役立たずになっているのだよ」
「いいえ、ストラウク様ほど力があればできると思います」
ヘレーネの発言に、マリカの表情がこわばる。マリカは何か言いたげな様子でストラウク伯爵を見つめた。
「他人にはない強い力を持って生まれてくることが、その子にとって幸せなことだと思うかね?」
ストラウク伯爵がヘレーネにそれまでの飄々とした口調ではなく、真顔でヘレーネの目を真っ直ぐ見つめて言った。
その答えは、ストラウク伯爵自身もまだ納得できる答えを見つけ出せずにいる。
「幸せだったと思える生きかたをしてほしいとは思います。せめて、私より長生きしてもらいたいものです。だから、その答えを、本人から聞くことがないことを私は望みます」
幸せになれる、または、不幸だと答えるならストラウク伯爵は、もうヘレーネと会わないことにするつもりだった。ヘレーネは、ストラウク伯爵にそれは本人にしかわからないことだと答えた。
「そうか。人は自分の生きたいようにしか生きられないものだと、私も思う」
マリカの胸の奥で、小さな針が刺さったような思いが痛みのように走った。ストラウク伯爵との子が産みたいとマリカは思ってきた。
ストラウク伯爵が生まれて来る子供に、巫女の資質を持つ娘を望んでいることは聞かされて知っていた。
しかし、巫女の資質を持つことが生まれてくる子供にとって幸せなことかと、マリカは問われたことはなかった。
マリカは、ストラウク伯爵から巫女の資質があると言われた。しかし、他の女性とくらべて、自分を特別な存在だと思ったことは一度もない。