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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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預言者ヘレーネ-3

マリカから見ても、目の前にいる褐色の肌と黒髪のとても美しい女性は、雰囲気からすでに特別な存在と感じられた。
ストラウク伯爵の隣で、マリカも同席して話を聞くように言われたのだが、ヘレーネはベルツ伯爵の御令嬢だとわかり、生まれも育ちも自分のような村娘とはちがう人なのだと思って、場違いな感じもして気まずかった。
それでも、自分はストラウク伯爵の妻なのだと思っていたところで、ヘレーネがストラウク伯爵の子供を産みたいという話を始めたので、心の中はざわざわと落ち着きを失っていた。
そこで、ストラウク伯爵が、生まれて来る子供が巫女の資質を持っていることを幸せだと思うかと、自分には問いかけたことがない質問をした。
マリカは知らないことだが、巫女の資質である、つまり潜在する魔力が強い女性は、相手のことをどれだけ恋しく思い慕っていたとしても、相手の男性にもそれなりに魔力がなければ、孕むことができない。
ストラウク伯爵の質問はそれだけではなく、魔力を使いこなす知識と手段を手に入れて、他人よりも特別な能力があると知った時に、自分は特別な優れた存在だと慢心して他人に尊大な態度をとるとしたら不幸になるのではないか、という意味もふくまれている。
また、祓魔師として命がけで戦い、他人のために犠牲になるかもしれないことは幸せなのか、という意味もまたふくまれている。
マリカには、魔法などの知識がないために、言外にふくまれている意味がつかめない。ストラウク伯爵とベルツ伯爵の御令嬢のヘレーネが、自分たちの子供は幸せになれると思うか話し合っているようにしか思えなかった。

(スト様、なぜ私に、わざわざそんな話を聞かせるのですか?!)

若い女性が訪ねてきて、自分だけ外されたら、嫌な気分になるだろうとストラウク伯爵なりに、マリカに対して気づかいをしたつもりだった。
自分の子供がほしいと言われるとは、ストラウク伯爵も思っていなかった。
ヘレーネは、使い魔を連れて歩くほど魔力が強い。マリカと同じように念の力が強いストラウク伯爵との交わりでも、ヘレーネが子を孕む可能性はあることも、ストラウク伯爵にはすぐにわかった。

「すいません……失礼します!」

マリカがヘレーネに頭を下げ、静かに退室する。そのまま感情を抑えきれずに、泣きながら肩を落としてストラウク伯爵の庵から出て行った。

「ストラウク様、追いかけなくてもよろしいのですか?」
「かまわない。今すぐ追いかけなければならないと、ヘレーネの予知する力で感じたのかね?」
「予知ではありません。ですが、きっと今すぐ追いかけて来てほしいだろうと思っただけです」
「これは予知だと感じた時は、自分でもはっきりとわかるものなのか?」

ヘレーネは拾った仔猫のレチェを母親に助けたいと願ったと、ストラウク伯爵に話した。

「変わらない運命と、風のように変わる運命か。命にかかわることを強く感じる力ということか」
「子を孕んだ時は、子ができたとわかる女性もいると聞いたことがあります。特別な力ではないのかもしれません」

ストラウク伯爵は剣の使い手として、身の危険にさらされている状況にいると強く自覚するほど、直感が冴えることがあると知っている。
生きるのを諦めて死に怯えた瞬間に、相手から殺気が失われるのを感じる。そのあと相手の身構えている姿勢が崩れる。
相手の緊張の糸が切れ、攻撃を仕掛けてくる瞬間も直感でわかる。
予知の力は、その直感力と関係があるようにストラウク伯爵には思えてきた。
目線の動きや息づかい、肩や足の小さな動きよりも先に、心の動きを感じ取れるのは理屈で説明できるものではない。

「子を残そうとするのは、虫や鳥獣と人間も変わらない。滅びないように考えているわけではなかろう。交わりを大昔から続けてきたから、私たちが今、生かされている。しかし、この土地の男たちはその意欲を失いつつある。それはなぜなのか、私なりに考えていることがある。障気が人の心に影響して異変が起きた。これが滅びへの道を選んでいるのか、人が交わりの必要がない世界に変わりつつあるのか、どちらなのかと私は考えているのだよ」
「交わりが必要のない世界?」
「亡霊や怨念の塊、肉体がない人の心が残ったものを、ヘレーネは感じることができるか?」
「ええ、レチェの大好物です」
「ヘレーネの母君が残してくれたその小さな姿の獣は、肉体のないものからすれば天敵となるだろう。やがて、肉体のない人間ばかりの世界になった時に、そのようになった獣がもっと現れるのかもしれぬ」

ストラウク伯爵が感じている危機とは、人間が肉体を持たないものに変化しつつあるのではないかということであった。

「肉体は死んでも、強い情念の力で意識が世界にわずかだが残っているもの。亡霊とはそうした存在だろう。人が意識だけの存在になれば、心に直接ふれあうことができる。愛し合う者たちも心をたやすくひとつに合わせられるだろう。人は交わるとき、それを望んでいるのかもしれぬ」

ヘレーネは予知の力を使い、人の命が失われる運命を変えようとしてきた。それがこの世界の変化に抵抗している行為だとは、考えたことはなかった。

「亡霊の天敵はレチェだとすれば、生きる人間の天敵はおたがい殺し合う人間ということですね」
「そういうことになるな。長い歴史を考えてみれば今まで生まれてきた人数よりも、殺された人数のほうがきっと多い。そうでなければ、世界はもっと人であふれかえっている」
「なぜ、人は死んでからも殺し合うのでしょう?」
「憎しみ、悲しみ、怒り、絶望、強い感情を抱いている人が死ぬと心が残り亡霊になる。亡霊は似た情念の塊の怨霊に合わさり取り込まれる。怨念は祟る。生きている人が怨念の力を込めて呪詛を行えば、亡者の怨念が合わされば生きている者を祟り殺すこともできよう。人は心に生きる活力になる感情と、危険な感情のどちらも持って生きている」


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