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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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預言者ヘレーネ-1

ストラウク伯爵領には、死地の兆候が発生していて、魔力が人並みの者たちには影響があらわれ始めていた。
男性の活力が減退し、なぜか生まれてくる子は娘ばかりである。この10年で男性の住人は、以前よりもかなり減った。生まれてくる子が娘ばかりということだけではなく、男性の住人たちが長生きできなくなった。
平原の国々や砂漠地帯で障気の魔獣化や憑依された者が事件を起こす事例は、以前とは異なっている。
以前は伝えられてきた儀式や地脈などを無視した行為の結果、祟りとして異変が起きていた。神聖教団では、理由を推察することができるものだった。
蜂の王の事件もそうだったが、理由が推察できず、魔力の才能を持つ者が関与した事件が発生するようになっている。
魔物ノクティスを、ミレイユと融合させ異界から召還できたことも、異変のひとつといえる。
ストラウク伯爵領にあるスヤブ湖に、魔物が発生した異変の記録が残されているが、それは祟りであった。ターレン王国が建国される以前の時代には、湖へ巫女として育てられた7歳の娘を、祟りの鎮めのために捧げる儀式を行うのを止めてしまったからである。
障気が魔獣化していたが、ターレン王国の侵略で訪れたストラウク伯爵の先祖たちは魔獣を討伐できた。同時に、風葬地をバーデルの都としたことも関係している。スヤブ湖に生贄を捧げる風習は、討伐の後はなくなった。
ストラウク伯爵領では、男性たちの変化が起き、生まれた巫女の資質を持つ娘が生まれてくるようになった。
スヤブ湖に障気が魔獣となり生成されてはいないが、王都ではランベール王が犠牲となっている。
ストラウク伯爵やテスティーノ伯爵と子爵カルヴィーノは、かつて魔物を討伐した祓魔師の才能を強く受け継いでいる。他の伯爵たちも受け継いでいるはずなのだが、子爵リーフェンシュタールのように、前世の記憶を断片的にだが思い出すことすらない人物たちである。
ストラウク伯爵領のスヤブ湖周辺に死地の兆候が起きていることは、いくつもの異変のひとつであり、大陸全域の情報を把握できていれば、すべてつながりがあるとわかるだろう。
神聖教団では神官(プリースト)の育成を行ってきた。教祖ヴァルハザードの討伐にあたって、未来を予知して結果を回避するために祓魔師となる者たちを集め
た神官たちがいたからである。
神官もヴァルハザードの側女として仕えたのちに怨霊となる女性たちと、予知した未来を回避しようとした女性たちがいた。しかし、現在では大陸全域で起きている異変を予知できる神官は、神聖教団の本拠地である古都ハユウにはいない。神聖教団は探し求めていた預言者の才能を持つ理想の神官になれる者は、ターレン王国のベルツ伯爵領に生まれていた。褐色の肌と黒髪を持つ術者アリーダは、自分の寿命を予知して、未来を託す娘を生み、娘に治癒の法術や身を護る使い魔を授けて死んだ。アリーダの娘ヘレーネは、使い魔の黒猫レチェを連れて、ベルツ伯爵領の村から、異変として死地の兆候が起きているストラウク伯爵領へ訪れていた。
預言者とは、この世界の均衡を維持する運命に直感的に従って生きる者である。母親譲りの褐色の肌と黒髪、そして美貌を持つ乙女ヘレーネも、はっきりと自分が世界の中でどんな役割を持つ者か自覚しないまま、直感的に預言者の運命に従って生きている。
獣人娘のアルテリスという親友ができる夢をみた。それはベルツ伯爵領の村ではない場所だということはわかった。
ベルツ伯爵領で暮らしていれば、アリーダの面影を持つヘレーネを慕うベルツ伯爵と子爵シュレーゲルが、ヘレーネを争い親子で殺し合うということを、すでに予知していた。
アリーダやヘレーネには、未来予知の力があり、死ぬはずの者を見つけると、できるだけのことをして救ってきた。それは、世界で起こる出来事の流れを変えてしまうことになるのはわかっていたが、目の前で人が死んでいくのは嫌だった。神聖教団の神官や才能がある僧侶も治癒の法術を使い人を癒すが、法術は世界のあるべき流れや在り方に干渉することになる。
ストラウク伯爵領の山に囲まれた盆地の底に船で渡るほど大きなスヤブ湖があるこの土地は、世界の在り方の歪みの反動のようなものが地脈や水脈のつながりからあらわれやすい土地なのだった。
死ぬはずでなかった者が落命する。死ぬはずだったものが生き延びる。
世界の在り方を変えてしまうことを、人は知らずに行うことがある。それが異変を引き起こす。ただし、引き起こされる異変は、殺伐とした出来事ばかりとは限らない。
落とし穴の罠にかかった母狸を子狸が困っているのを見て、猟師のことが嫌いなので、穴に落ちた母狸を逃がした少年がいた。
子供嫌いの猟師は子供が山で遊んでいると獲物の獣に物音や匂いで警戒されて逃げられてしまったり、罠にかからなかったりするので、子供を捕まえると殴って山から村へ追い返すことがある。
獲物として捕らえられて殺されるはずだった母狸、うろうろしていて山犬に襲われるはずだった子狸の命を少年は助けてしまった。
猟師は落とし穴から獲物が逃げられたと思っただけだった。山犬は子狸ではなく通りかかった獲物を襲った。少年は狸を助けても、見捨てたとしても、気分のちがいがあるだけで何も変わらないと思っていた。猟師の狩りの妨害をしたのがばれないか、ばれたらひどく殴られそうで少しこわかったことだけであった。
後日、猟師は山犬と遭遇してひどく噛まれた。ただし、命に別状はなかった。落とし穴に落ちた母狸が傷だらけになって気絶させられたのを報復したかのような出来事だった。因果は人の知らないところで影響をあらわしていく。
不思議な話はまだ続く。少年が青年になり、子供の頃に遊んだ山に行ってみた。すると、足をすべらせてしまった。
青年が気がついた時には、あまり裕福そうではない家で寝かされていた。服は泥だらけだったので、脱がして洗い、干されているとのことだった。
あたりはすっかり日が暮れて夜になっていた。


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