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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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子爵シュレーゲル-1

ベルツ伯爵は、ザイフェルトとフリーデから、地主の地位を剥奪した。

殺害された息子メルケルは長男で、他にも母親が異なる息子と娘がいた。シュレーゲルとヘレーネという。

「シュレーゲル、兄のメルケルは不幸にも落馬して急死した。今日からお前が子爵として、我が領地を継ぐ者となった」

シュレーゲルは、ベルツ伯爵の館に呼ばれ告げられると、その場で片膝をつき頭を下げた。

「ヘレーネ。メルケルの馬の手入れを怠った地主を罰したので、地主として村人たちをまとめる者がおらん。貴族の娘として、他の伯爵家に嫁がせるつもりだったが、地主となる者と結婚してはくれぬか?」

「お断りします。父上、私は母と同じように、旅に生きる身となると決めております。他の娘を地主になさって下さい」

他の娘とは、ベルツ伯爵が他にも村娘に生ませた娘が3人いるからであった。

殺害された長男メルケルは、他の伯爵家から嫁いできた妻の子である。ベルツ伯爵は子爵から伯爵となる条件として、母方の伯爵家の娘と婚約することを受け入れた。
次男シュレーゲルは、地主の娘を妻妾として生ませた子である。領地の有力な地主の娘を妻妾とすることで、つながりを強めておくのは、領主としての政略的な慣例であった。
メルケルとシュレーゲルは、腹違いの兄弟というよりも、親分と子分のようにつるんでいた。

長女のヘレーネは、すでに25歳だが、今まで他の伯爵家に嫁がせて来なかったのには理由があった。

「お前は母親のアリーダと似て、民に慕われておるではないか」

ヘレーネは、ターレン王国ではめずらしい褐色の肌と黒髪で、灰色の瞳を持つ女性だった。
ヘレーネの母親のアリーダは旅人で、立ち寄った村で農作業を手伝っているところを、ベルツ伯爵に見つかって館に連れて行かれた。
そして生まれたのが、ヘレーネである。

地主よりも身分が低い旅人の子であることや、その容姿から、他の伯爵家に妻として迎えるのを敬遠された。
ただし母親アリーダと似た美貌のため、妻妾であれば喜んで迎えたいという者はかなりいた。だが、ベルツ伯爵は妻妾の縁談は断り続けていた。

「ふふふ、母親と似て強情な娘だ。そなたが息子であれば、私の後継ぎとするところなのだが」

シュレーゲルがそれを聞いて、うつむきベルツ伯爵から表情を隠した。

ヘレーネは母親のアリーダから、砂漠の民が、オアシスの水が渇れたので旅立った物語を聞かされて育った。
ヘレーネがまだ9歳の頃、母親のアリーダが、眠ったまま目を覚まさない奇病で急死した。
アリーダの急死は、若い頃の旅暮らしの疲れのせいだろうと、ベルツ伯爵は思っていた。
アリーダの死後、ベルツ伯爵は多くの女性と交わり、次男のシュレーゲルと、手を出した村娘との間にも、3人の娘を授かった。
しかし、ベルツ伯爵にとってヘレーネは他の子とはちがう思い入れがある特別な存在であった。
地主にして手元に置いておきたい。しかし、ヘレーネを他の男性に渡したくないという気持ちもベルツ伯爵にはあった。

「ヘレーネが15歳になったら、旅に出ると言っていたではないか。ヘレーネと私も、旅を一緒に連れていく約束だったではないか。ああ、アリーダ!」

ベルツ伯爵は目を閉じて、アリーダの眠ったような顔で死んだ時のことを思い出出していた。その時、自分がアリーダの遺体に抱きついて泣きながら叫んだ言葉は、まだはっきりと胸に残っていた。

「父上、しばしの別れのお許しを」
「好きにせよ。だがヘレーネ、忘れるでないぞ。父はいつまでも、旅から帰るのを待っておることを」
「はい……父上に、神の御加護があられますように」

ヘレーネは一礼すると、片膝をついて顔を下げているシュレーゲルの脇を何も言わずに声をかけずに通り過ぎた。
ベルツ伯爵は、ヘレーネの出て行った扉を涙ぐんで見つめたまま、シュレーゲルに何も言わない。

腹違いの弟シュレーゲルを、ヘレーネは避けていた。故郷を離れる旅立ちの瞬間でさえも。

「シュレーゲル、もう下がってよいぞ」
「はい、父上、失礼します」

亡くなった兄のメルケルはヘレーネを嫌っていた。だが、シュレーゲルにとってヘレーネは憧れの女性であった。
シュレーゲルがヘレーネのことを、姉ではなく一人の女性として慕っていることに気づいていたからである。

ベルツ伯爵は、ザイフェルトとフリーデから没収した耕作地を3つに分け、何年も顔を見ていない3人の隠し子の娘たちに分け与えることにした。

かつて、平原から渡ってきた滅びた国の王族の末裔が、ゼルキス王家であるように、砂漠の民の国が滅びたあと、ゼルキス王国の瞬間移動の儀式の間へ、アリーダはやって来た。砂漠の中で廃墟となった古都に、瞬間移動の仕掛けが残されている。
そのままゼルキス王国に留まらず、アリーダは辺境を通過して、ターレン王国を訪れた。
アリーダは、神聖教団の僧侶や神官とは異なる風の神の信仰を持つ者であった。
そして、預言者でもあった。
ゼルキス王国に来た時には、アリーダはベルツ伯爵との間に娘を身籠ること、やがて娘に力を譲り、自分は亡くなることまで、すでに予知していた。

預言者の資質をヘレーネは、母親の死の瞬間から受け継いでいる。

(父上が、おそろしい運命に流されてしまいませんように)

ベルツ伯爵領から、ヘレーネは出奔し、残されたのは後継者の子爵シュレーゲルであった。

予知した未来を変えることはできる。幼いヘレーネが子猫を拾ってきて、母親のアリーダに子猫の命が助かるか聞いたことがある。
アリーダと幼いヘレーネは、ベルツ伯爵の邸宅ではなく、領地の村の家で、母娘の二人で暮らしていた。
アリーダはベルツ伯爵の妻妾になる前のように、村の農作業を手伝ったり、村人の怪我や病を治療していた。
ベルツ伯爵はアリーダを妻として館に迎えたがった。だが断った。


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