子爵シュレーゲル-5
一度だけ酒に酔ったザイフェルトが、激しくフリーデの体を求めてきたことがあった。フリーデに何度も挿入した。最後はフリーデがぐったりして動けなくなるほどだった。もともとザイフェルトは旺盛で、普段はフリーデを気づかい我慢しているらしいことがわかった。
「子爵様、夫婦でも、どういうやりかたがいいのかは、人それぞれですから」
フリーデはシュレーゲルの頬を優しく撫で、ザイフェルトとの夫婦の交わりのことを、かなり恥ずかしかったが、シュレーゲルに話して聞かせた。
シュレーゲルは腹違いの姉ヘレーネに恋慕していたので、兄のメルケル子爵のように、他の女性と交わろうという気がどうしても起きなかったのである。
ヘレーネのことを思いながら自慰をしたあとは、腹違いの姉に淫らな思いを抱いていることに、自分はなにをしてるだろうと、落ち込んでしまう夜もあった。
シュレーゲルが恋慕し続けていたヘレーネが、いつ戻って来るかもわからない旅に出てしまった。さらに、子爵の爵位を父親のベルツ伯爵から授けられ、シュレーゲルは後継者として、伯爵領に残ることになってしまった。
シュレーゲルは、腹違いの姉ヘレーネに対する恋慕について、フリーデに話せなかった。
「子爵様、もし他に慕う女性がいて、私と交わるのが嫌でしたら、こうしてお話をしたり、手をつないで、一緒に眠って下さいませんか?」
フリーデは、シュレーゲルが童貞な理由を察して言った。
(伯爵様は、シュレーゲル様がこのままでは、女性との交わりを避けたままになられるのではないかと心配して、私にこのようなことを命じられたのでしょう)
「フリーデ、嫌というわけではなくて、詳しく話せないんだけど、その、好きになってはいけない人を好きになってしまったというか」
「子爵様、私は夫のザイフェルトがいなくなってさみしい夜もあるのですよ。あの、これ以上、私に、恥をかかせないで下さい。ザイフェルトは、私が眠るまで手をつないでくれたものです」
そう言って、フリーデはシュレーゲルの唇にキスをした。シュレーゲルはフリーデのキスが、淫らなものなっていくのを受け入れていた。
キスをしながら、フリーデの手が痛いぐらい、ぎゅっとシュレーゲルの手を握りしめてくる。
シュレーゲルは、フリーデのキスのやりかたをまねて、フリーデの口の中に舌を入れてみた。
するとフリーデは、そのおとなしく淑やかな雰囲気や口調とはちがい、大胆にねっとりとシュレーゲルの舌に自分の舌を絡みつかせてきた。
長いキスのあと、フリーデがもう何も言わずに、シュレーゲルの勃起したものを優しく握り、上下に扱いた。
「フリーデ、もう、僕は、んんっ!」
フリーデにキスで口を塞がれたまま、シュレーゲルは果てた。フリーデの手は、シュレーゲルの白濁したものまみれになってしまった。
「今夜はもう、こちらの手は、子爵様とつなげませんね。おやすみなさいませ」
フリーデはそう言うと、シュレーゲルに背中を向けて隣で身を横たえていた。
シュレーゲルが、フリーデの背中を背中を撫で上げると、ぴくっとフリーデが身を小さく震わせた。
シュレーゲルはその反応に少し驚き、フリーデの背中から手を離してしまった。
「子爵様、背中を撫でられるのは、嫌ではありません」
恥ずかしさにシュレーゲルのほうへ体を向けて話せず、フリーデは体を丸めて、小声で言った。
背骨のあたりにそって、シュレーゲルに指先でそっと撫で上げられると、フリーデの体には声が洩れそうになるぐらい、ぞくっと快感が走った。
こうして、シュレーゲル子爵とフリーデは、村に子爵が泊まるたびに、だんだん肌をふれあうようになっていった。
しかし、フリーデはシュレーゲルが挿入することだけは拒んでいた。
フリーデが最後には手で扱いて射精させてはくれるので、興味はあったが、射精してしまったあと、フリーデに添い寝されていると落ち着いてきて、シュレーゲルは強引にフリーデに挿入しようとはしなかった。
子を孕めば、シュレーゲルと引き離される気がした。子を孕んでもフリーデを伯爵家の妻妾にすることを、ベルツ伯爵は許さないだろう。
だから、ゆきずりの娼婦のようにシュレーゲルを慰めるように命じたのだと、フリーデにはわかっていた。
シュレーゲルは、腹違いの姉ヘレーネのことは忘れたわけではないが、フリーデとの情事に夢中になっていった。
メルケル子爵がフリーデに手を出して、誇り高いザイフェルトに殺されたのは、メルケル子爵を自分が結婚させておかなかったせいだと、ベルツ伯爵は後悔していた。
つながりを強めておきたい伯爵家から、シュレーゲルが令嬢を娶るまで、ヘレーネを追って出ていかないようにするにはどうすればいいか。ベルツ伯爵は考えてフリーデを餌に、シュレーゲルの出奔を止めることにした。
ヘレーネが出奔しただけでなく、子爵にしたシュレーゲルまで出奔されては、ベルツ伯爵からすればたまったものではなかった。
また、モルガン男爵がいなくなれば、ヴィンデル男爵が宮廷の重鎮だった頃のように地方の伯爵たちが、伯爵家が縁者の男爵たちを宮廷に送り込み、国の実権を握る時代が来ると信じていた。
だから子爵には、他の貴族と婚姻を結ばせて、血のつながりを強めておく必要がある。
(シュレーゲルの子の世代になれば、次男は地主ではなく、男爵として王都の王の廷臣にすることもできるだろう)
シュレーゲル子爵が、フリーデを妻妾に迎えたいと言い出した時、ベルツ伯爵は許さなかった。フリーデは父親はブラウエル伯爵だが、妻妾の母親ナタリアは、先祖が男爵だったわけてはない平民階級の一族の者だった。
シュレーゲルが宮廷官僚となった時の根回しのために、純粋な血統の貴族の令嬢を正妻に迎えておきたい。
ベルツ伯爵は、領主が捕縛され混乱しているバーデルの都へ、フリーデを送り込んだ。