子爵シュレーゲル-3
どうやら村人たちがシュレーゲルに気を使って、若い女性を介抱もかねて、あてがったらしいと気がついた。
「いや、僕はそういうつもりで村に来たわけじゃなくて」
「子爵様、一緒に寝るのがお嫌なのでしたら、ベッドはこの家ではこれひとつですから、私は床で寝ますが……」
「ベッドを使ってもいい」
「ありがとうございます、子爵様」
ベッドでは誰でも、下着姿か裸で寝るのが習慣となっている。シュレーゲルは、仰向けから、背中を女性に向けて、横向きになる。すると、女性も横向きになりシュレーゲルの背中にぴったりと密着する。女性の胸のふくらみの感触が、がシュレーゲルの背中をくすぐる。
「さっきの宴の時にはいなかった。あなたは誰?」
「私の名前を聞かないで下さい。それに子爵様、私がこの場で、本当の名前を言うとは限らないではありませんか」
「しかし……あぁっ……う……」
若い女の手が、シュレーゲルの股間で勃起したものをやんわりと握り、上下にゆっくりと扱いている。
「子爵様、このままお出しになって、朝まで眠ってはいかがですか?」
若い女性の手の動きは止まらない。シュレーゲルの息が乱れていく。シュレーゲルも自慰はしたことがある。しかし、女性のしなやかな手で刺激されるのは、自分でするのとはちがう快感だった。
「うぁっ、はぁ、はぁ、はぁ……」
シュレーゲルの背中が小刻みに震え、勃起したものが女性の手の中で脈打つ。
「おやすみなさいませ、子爵様」
翌朝、目を覚ますとシュレーゲルは、ベッドを一人で使っていた。射精したあとそのまま眠り込んでしまったと気づき、家の中を探してみるが女性はいない。
夢ではなかった。ベッドのシーツには、昨夜、射精したものがついていた。
「昨夜、泊まった家には誰か暮らしているのか?」
「いいえ、誰も暮らしておりません」
村人たちはすでに農作業へ出かけていったあとらしく、何人かしか見かけない。子供を見かけたのでシュレーゲルは声をかけてみた。
「ねえ、ぼうや、あっちのおうちは誰のおうちかな?」
「フリーデのおうち!」
シュレーゲルは邸宅へ戻り、その夜ベルツ伯爵と話し合うことにした。
3人の村の妹たちは、婿たちと地主として村をまとめていること。
兄のメルケルがやったことに対して、村人たちが寛容だったこと。
かつてアリーダとヘレーネの暮らしていた家は中に入ることができず、不思議な話をいくつも聞かされたこと。
酒をふるまわれ、昨夜、泊まった家がザイフェルトとフリーデの暮らしていた家らしいこと。
添い寝をしていた女性に愛撫されて、射精してしまったことは黙っておいた。
「父上、伯爵や子爵は女性を妻妾とすれば、再婚したように村の者たちは考えるのだとわかりました」
「シュレーゲル、伯爵は自領の民から収穫物を、パルタの都に何も考えず上納すればよいわけではない。民も餓えさせないようにしなければならない。地主たちは、畑を半分休ませ、それまで休ませていた土地を耕し作物を育てる。土地が痩せて収穫が減らないように。それでも毎年、豊作が続くわけではないのだ。それに、自分の領地がうまく収穫できても、つながりのある他の領主が収穫する量が不足すれば、収穫を分け助け合わなければならない。妻妾を迎えるのはそうした事と同じ慣例だ」
シュレーゲルは3人の腹違いの妹たちが地主の村の見廻りを、ベルツ伯爵から命じられ、村に通うことになった。
また宴で村の負担にならないように、シュレーゲルはベルツ伯爵から渡された金を持って行くことになった。
バーデルの都に行けば、毎日市場が大通りに並んでいるので、必要な品物を村人たちから聞き集め、買い出しに行くのも地主の役割らしい。
「シュレーゲル、まだ若い子爵のあいだに、村人たちの暮らしを知っておくのも大切なことだ」
ベルツ伯爵が、なぜ腹違いの姉のヘレーネを後継者にしたいと旅立ちの日に言ったのか、シュレーゲルなりに少しずつわかってきた気がした。
ヘレーネは、幼い頃から村人たちと暮らしてきたので、村人たちの習慣や考え方がわかる。兄のメルケルや自分はそれをまったく考えず、父親の伯爵のやりかたを覚えていけばいいと考えていた。
世界が1枚の硬貨だとすれば、硬貨の片側だけを見ていたようなものだと、シュレーゲルは感じるようになってきたのである。
宴が開かれると、シュレーゲルは酒をふるまわれ、ザイフェルトとフリーデの家に泊まることになった。
見廻りや宴では見かけない、いつも同じ若い女性が添い寝する。酔いすぎないように飲む量を減らし、ベッドに村人たちはシュレーゲルを運ぶと、家で待っている若い女性にシュレーゲルをあずけて帰っていく。
寝たふりをしていると、女性はシュレーゲルの衣服を脱がし、体をひんやりとするよくしぼった布で拭いてから、自分も裸になると体を拭っている。
薄目で窓からの月明かりに照らされている女性の体つきや顔立ちを見ているが、想像していたよりも美しいことにシュレーゲルの胸が高鳴った。
添い寝しているのは、部屋が暗いので、地主になった3人の妹たちではないかともシュレーゲルは考えていた。
若い名前も知らない美しい女性は、窓を閉じると月明かりが遮られ、部屋が暗くなる。女性がシュレーゲルの隣に寝そべったのがわかった。
「あっ……子爵様、今夜は起きていらしたのですか?」
シュレーゲルは暗がりで手をのばして、女性の体に抱きついた。声から顔のあたりはどこか思い浮かべる。
シュレーゲルは返事をせずに手ざわりて若い女性の体を確かめていく。
やがて、手が女性のふくよかな胸にふれた。シュレーゲルはふくよかな双乳を、おずおずと揉みまわした。
「子爵様、あぁっ、んっ、あぁっ……」
艶かしい声、少しずつ乱れていく吐息。あの月明かりに照らされていた美しい女体にふれていると思うと、興奮した。