父母会活動の日々-2
「ねえ、◇◇さん?」
校門を出たところで後ろから森下に声をかけられた。
「◇◇さんは父母会活動は初めてなのね?」
「はい…。いろいろお世話になります」
「ううん、気にしないで? すぐにわかると思うけど、意外と楽しいものだから」
「…ありがとうございます」
「あ、そうそう。ご覧になったことがないんだったらご案内するけど、自販機」
「あっ、いえ、今日は…」
「これから中の台にお帰りになるんでしょ? ちょっと遠回りになるかもしれないけど、よかったらウチにも寄ってお茶でも飲んでいって?」
このあと確たる予定があるわけでもないから断り切れなかった。
並んで歩いていると、森下から、娘は第4子で40歳のときの子供であること、役員も4回目であること、夫は自営業であることなどを一方的に話してくる。
「あれよ」
森下の視線の方向に自販機が立っている。ためらう素振りもなく自販機に近寄っていき振り向いて「いいから、いいから」と手招きする。幸い人通りもないから仕方なくついていく。
「ほら見て? こんなのが売ってるのよ」
自販機には列が4つあり上から一列に4冊雑誌が並べてある。
「◇◇さん、こういうの見たことある?」
「い、いえ。全然ないですっ…」
「大人が見る分にはどうってことないんだけどね」
見たことがないなどとカマトトぶってみたが、その昔、アルバイトで性に関する部兼整理と称して、この手の雑誌をさんざん扱ったことがあったから、ほとんど「どうってことのない」中身であることまで知っている。それでも、十数冊のうち1、2冊は、とってつけたようなタイトル、高くはなさそうなレベルのモデル、クオリティの低いレイアウトといった雰囲気から、逆に内容の卑猥さが思われた。
「あら、赤くなって。かわいいんだから…。この手の本、近田ちゃんからいっぱいせしめてるから、よかったら持っていきなさいな」
子供の担任をちゃん付けで呼ぶばかりか、いかがわしい雑誌まで融通していることを暴露されて驚きつつ、おそらくさんざん振り回されているのであろう近田に同情もしたが、社宅にいた詮索好きな女と同じ種族と思えば、それなりにうまく付き合っていかなければならない。
「かわり映えしないわねぇ…。行きましょうか」
あたかも、新しい雑誌が入荷しているのを期待でもしていたかのように。森下がため息をつくと自販機に背を向ける。
「ここがあたしのお家。寄っていって」
古びた一戸建ての家の前まで来る。子どもには鍵を渡してあるから、急いで帰る必要もないが、いかがわしい雑誌を一緒に見るほど親密になった覚えもない。
「せっかくですけど、すみません。下の子が小学校から帰ってきますので」
「雑誌はいいのぉ?」
「それはまた今度にでも…」
森下を振り切り家に向かいながら表紙にいかがわしい写真を載せた雑誌の数々を思い出す。身体の奥に疼きを感じて割れ目の中が潤っていく感覚を覚える。夫は今日も深夜に家に帰ってくるだけだろう。もうかれこれ一月も『して』いない。