カルテ2 青山藍 29歳 銀行窓口係-1
【幸介の卒論より】
他者への依存と自己完結のバランスを保てない心は、一方的に愛情を与え続けた結果、自らを乾かし砂浜の砂のように固まることを知らず自己を保つことができなくなってしまう。時に降り注ぐ雨のような愛情も必要なのだ。求めることも必要なのだ。
カルテ2 青山 藍(あおやま あい)29歳 独身 銀行窓口係
クリニックが併設された自宅のリビングで幸介は倫に施した治療を思い出していた。
しっかり成長した肉体と多くの知識を持った大脳が作り出す倫の心は相反する欲望の間で我を失いかけていた。
昨夜は心を被う皮膜を強引に引き剥がしてみた。
今、倫の心はむき出しになっているはず。
次の治療はいつ頃がいいだろうかと思いながらノートパソコンの画面に視線を投げた。
盛夏の土曜、東京郊外のアミューズメントランド敷地内に建てられたホテルのバスルームに藍はいた。
世界的に有名なキャラクターがアメニティグッズにデザインされ、それを見ているとつい微笑みたくなってしまう。
スイートにはベッドルームとは別にリビングがある。
そこに、一人の男性が藍を待ってくれているはずだ。
柔らかな光がバスタブに張られた湯をとおして藍の身体にも降り注いでいた。
薄いベージュ色のバスタブは藍が両脚を伸ばしても向こう岸に届かない。
揺らめくアンダーヘアーがキラキラ美しく見えるから不思議だ。
バスタブの縁まで満たされたお湯は、真夏の陽射しの下、はしゃぎまわった身体と昨日までの殺伐とした心に潤いを与えてくれる。
待たせている男性を思うと、早く上がらなければいけないと思うけど、適温の湯と幾分残る恥ずかしさが藍の行動を遅らせていた。
こんな安らかな時間はいつぶりだろうと、藍の瞳に涙が滲む。
藍は瞼を閉じ一昨日のことを思い出した。
一昨日・・・
携帯の出会いサイトで知り合った23歳の男と新宿歌舞伎町のラブホテルにいた。
男は大学生だと言ったが本当のことは判らない。
けど、行きずりの関係だからそれでいいと思った。
新宿駅の東口で待ち合わせたが、約束時間に30分遅れて男はやってきた。
藍は待たされることには慣れていた。
大学生と名乗る男は、すぐさま藍の手を引きホテルに引っ張り込んだ。
藍もさほど抵抗することなく男に従った。
ギラついた照明の落ち着かけない部屋に入ると、藍をソファーに座らせ男はバスにお湯を張りに行ってくれた。
結構、優しいんだと思いながら、部屋を観察した。
ブラウン管のテレビ、カラオケセット、赤いベッドカバー
どれもが古臭いけど、自分にお似合いかもと思えて苦笑した。
しばらくすると男が戻って来た。
男は全裸だった。
身体のどこを隠そうとしない男から視線を逸らす。
だけど目の前に来た男は、両手を引っ張りあげ藍を立たせると服を脱がせ始めた。
真夏の今、白いブラウスとグレーのタイトスカートの下には下着しかつけていない。
瞬く間に純白の下着姿にさせられた。
衣類を床に投げ捨てたまま、男は藍の手首をつかむとバスルームに引っ張って行く。
そして、考える時間も与えられず下着をつけたままでお湯に入れられた。
白いブラとショーツがぴったりと身体に張り付いて、胸の突端とヘアーが透けた。
男はたまりかねたように湯船に脚を入れ、藍と向かい合う形でバスタブの縁に腰を降ろした。
そして両手で藍の頭をつかみ股間に引き寄せようとした。
藍の目の前にはすでに屹立している男があった。
目を逸らそうとするが力が強くてそれができない。
だから固く瞼を閉じた。
さらに両腕を男の膝にあて抵抗したが、ぐいぐいと引き寄せられ鼻の頭に男の先端が当たってしまう。
オスの匂いが藍を襲った。
シャワーを浴びてないのかと藍は嫌悪する。
男はそのまま藍の唇に自分を押し当てた。
藍は唇を固く結び、それを拒む。
幾度か試みるのだが、頑なに拒み続ける藍に男がつぶやいた。
「たのむ」
それを聞いたとき、藍の肉体から力が抜け落ちた。
どうしてなのか、頼まれると拒めない自分がいる。
そっと唇を開き、ゆっくりと咥えこんでいく。
男も猛々しさはなくなって藍の動きに身体を預けている。
若いから強がっていたのかな?
そんな風に考えられる自分が納得できなかった。
ぴったり張り付いたブラの中に男の手が強引に忍びこみ、張りのある乳房が強く握られた。
乳首が立ってしまっているだろうと藍は思う。
藍の大脳を痺れさせたからだ。
「んっ」
男を口に含んだまま、くぐもった声を出した。
藍も行為に没頭し始め、顔を激しく上下させた。
瞬く間に男は硬度を増して、藍の口中に精を打ちつけた。
それを飲み下しながら藍は考えた。
慎一さん、貴方がいけないのよ。
あなたが・・・と。
藍には8年間付き合っている恋人がいた。