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精神科医佐伯幸介のカルテ
【女性向け 官能小説】

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カルテ1 藤堂倫 27歳 新聞記者-1

第1章 藤堂倫

【幸介の卒論より】
溢れるほどの語彙力は、心を十重二十重に脚色する力を持っている。漆塗りのように脚色された心は、第三者にその潜在部分を悟らせず、ときに自らの大脳にさえも正体を包み隠してしまうこともある。

東京青山、十六階建てマンション最上階。
リビングのテーブルに置かれたノートパソコンに「RIN」と名乗る女性のプロフが表示されていた。
並んだ文字を優しい眼差しで眺めておよそ3分、幸介は一人の人物像を意識に描き終えた。

カルテ1の1 藤堂倫(とうどうりん)27才 独身 新聞記者

赤坂に建つ高層ホテルのツインルーム。
大きな窓に大都会を彩るネオンが溢れていた。
瞬く光は窓際に立った倫の白い顔に反射し、縁のない眼鏡と肩の下までまっすぐに伸びる黒髪に七色の模様を描いていた。
瞳は遠く瞬く光を眺めているようだが、実のところ倫には何も見えてはいなかった。
もちろん物理的に届く光の波は電気信号に変換され大脳に情報を運んではいるが、大脳がそれを意識させていない。
倫は部屋の空気に意識を集中させていた。
わずかな変化も見逃さないように神経の全てを背中に配置している。
それはソファーに腰を下ろした男のせいだ。
男が自分の背中を眺めていることがわかる。
その男の動きに全神経を向けていた。
心臓が激しく鼓動し、長身の身体が小刻みに震えた。
動揺を男に知られたくない。
だから、大きくゆっくり呼吸をしようと努力した。
佐伯幸介は倫の後ろ姿を眺めていた。
飾り気のない白いブラウスとグレーのタイトスカートが清潔感を高めているように思う。
くびれたウエストと豊かに張った臀部が作るラインは、高い教養と肉体の間にアンバランスを生んでいる。
青山の自宅リビングで頭に描いた人物像の修正を終えるのに5分ほど費やした後、緩慢な動作でソファーから立ちあがり、ゆっくりではあるが躊躇うことなく倫の背中に近づいた。
無音のツインルームでも幸介の足音は聞こえない。
しかし、倫の背中は近づく幸介を捉えることができた。
呼吸が乱れ窓枠に右手を添える。
そうしないと膝から崩れ落ちそうだった。

幸介が震える両肩にそっと手を置いた。
静かな息が頭上に聞こえる。
その両手が交錯するように胸元へ伸び、やさしく包みこまれた。
程よい力と体温が頑なだった心を溶かしていく。
倫は瞼を閉じて幸介を感じようとした。



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