未亡人との歪な関係A-5
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悠斗が隣で寝息を立てているのを確認して、佳織は室内の露天風呂へとむかった。
汗だくの体に軽くシャワーを浴びて、仄かな光が灯されて、キラキラと輝く湯船へ足を浸ける。
冴子とのことがあって、佳織は悠斗とは体を重ねるのを何となく避けていたのだ。
だからこそ、風呂での行為は簡素なものとなってしまった。
悠斗とのセックスを避けたのは、悠斗に対する罪悪感からではなく、冴子と交わった、あの素晴らしい感覚を保ったまま、旅を終わらせたかったからだった。
そんなことを湯に浸かりながら思っているとカタン、と背後から音がした。
振り向くと冴子が裸で立っている。
「ふふ、お風呂入ってるの見えたから。来ちゃった」
冴子は笑ってそう言った。
佳織は、つい先程まで冴子との行為を思い返していたせいで恥ずかしくなり、何も声をかけることができず、また景色の方向を向いた。
しばらくして、冴子が湯船へと入ってくる。
先程、悠斗に抱かれたせいですぐに欲情してしまいそうだった。悠斗とのセックスではーー色々な状況に集中出来ずに絶頂を迎えることができずにいたからだった。
「ーー起こしちゃいました?」
冴子の顔を見ず、恐る恐る佳織は尋ねる。
「ーーごめんなさい、起きてました」
そう言われて、佳織は冴子の方へ振り向く。
ひどく、切なそうな表情を浮かべていた。
「あ………嫌なものを、聞かせてしまってごめんなさい」
「いえ、そんな。佳織さんは悪くありません。止めた方が良かったですか。あの状況、あたしなら怒っちゃうから。ひどい、門井くん。「優しい」っての前言撤回したい気分。人がいるのに、女性にあんな強引な。彼氏にされたら断れるわけないじゃないですか」
冴子は、本当に優しい人だーー
そう思いながら、自分の浅はかさを恥じる。
佳織は、自分の声を冴子に聞かせたいと思ってしまっていたのに。
腹が立っているにもかかわらず途中で止めなかったのは、おそらく佳織に恥ずかしい思いをさせないためだろう。
「いいの、怒らないで。仕方ないの……折角二人きりにしてくれたときに、させなかったの」
「……したくないときだってあるでしょう。合意のもとでやるからセックスって気持ちいいんですよ」
冴子は右隣に座る佳織の肩を撫でた。
「見ててって言われたらいくらでも見ますし。でもそこに恥ずかしさ以外に嫌だって気持ちがあったらやるべきじゃないです」
「違うの、本当に」
佳織は肩に置かれた冴子の手を右手で掴む。
急な挙動に、冴子の体が一瞬震えた。
「違うの……あたし、ずるいの。あたしの声、冴子さんに聞かせたかった。悠斗くんにされたら当然断れないし……冴子さんに悪いって思いながらも、冴子さんが、あたしにドキドキしてくれるんじゃないかって思ってたの。
それに、あなたとしたままの感覚で、帰りたかったから。だから二人きりのときに悠斗くんとできなかったの」
「佳織さん」
「悠斗くんがすごく羨ましい。あなたの体を好きにできる悠斗くんが」