銀の羊の数え歌−12−-2
「牧野君も、今週で終わりよね。研修」
「はい」
僕は頷いた。
「どうだった?本当の仕事場で役に立ちそうかな?」
「あ、はい。もちろんです」
とは言ったものの、実のところそんな自信は少しもないのだった。逆に、この仕事の厳しさを改めて思い知らされて、後込みしてしまったのかもしれない。
マグカップを両手で包み込みながら、茶色い液体に目を落としていると、前の方で畑野さんの立ち上がる気配がして、僕は慌てて顔をあげた。
と、目の前に一枚の紙切れが差し出される。 なんのことか分からず、僕は視線を畑野さんに向けた。
「あげるわ」
そう言うと彼女は、それを僕の手に握らせた。
「柊さんの入院する病院の地図よ」
「え・・・?」
驚きのあまりに、声が裏返ってしまった。
メモに書かれていた病院は知ってる。僕の自宅からたいして離れていない場所にあるはずだ。
でも、どうして畑野さんは僕にこれを渡す必要があるんだ。いや、そんなことよりも、柊由良は入院するほど体調がよくないというのか。僕はその紙を握ったまま、固まった。
畑野さんは真剣な顔で、じっと僕を見つめながら言った。
「来週から彼女、入院することになったの。プライバシーにかかわるから、詳しいことは教えられないけど。牧野君、向こうで仕事が始まっても暇な時でいいから、
ちょっとでも柊さんに顔を見せにきてあげて。お願い」