謝罪と裏切りと裸の女王様(後編)-1
恵美は笑いをこらえきれないような表情だ。
「これ、学校中にばら撒いてやろうかな。新東中きってのファッションリーダー・赤倉瑞華のヘアヌード。みんなからはどんな反響か楽しみね」
「は、はぁ……!?」
思いもしなかった事態に、瑞華は動揺を隠せない。追い打ちをかけるように恵美は続ける。
「もちろん、ネットにもね。そんだけ自信満々なんだから、存分に見てもらったら?」
「な……何それ!?」
今まで瑞華がみさきに、そして恵美にそうすると脅してきたこと。それをまさに自分がされるというのだ。
全校生徒のまなざしというまなざしが、自分の裸に降り注ぐ。今まで彼女をファッションリーダーとして讃え、憧れ、追随してきた女子たちからも。熱烈な浩介推しの彼女からすれば、歯牙にもかけなかったような冴えない男子たちからも、今まで自分を従順に慕ってきたテニス部の後輩たちからも、ことごとくだ。いつも自分を見るときには、その裸と重ね合わせる。
ネットにも上げられれば、それは校内にとどまらず、世間の誰もが、自分を中学生で裸を晒した女として噂する。それが家族にも知れた日には……。
そんな光景がいやでも脳裏に浮かぶ。さすがの瑞華も空恐ろしくなった。その表情にも動揺は隠せない。
そして今まさに自分が全裸でいることが、にわかに恥ずかしくなってきた。もう遅いが、瑞華はあわてて手で胸と局部を隠そうとした。
とはいえその恥毛は濃いから、片手では隠し切れない。両側から、黒い毛があからさまに覗いていた。胸を覆おうとする左腕の上に、乳首も出てしまっている。
かえって無様さを増した瑞華の姿態を、狼狽の表情ともども恵美はさらに撮った。
「え、恵美、あたしをほんとに裏切る気?」
焦燥に駆られつつ、瑞華は恵美を睨みつけて詰る。
「先に裏切ったのはあんたでしょ? 相生さんをちょっと弁護しただけであんなことまでして、こうやって彼女をいじめるのに協力させて。ずっと友達だと思ってたのに!」
動じるどころか、恵美は逆に怒りを露わにして糾弾し返した。
「忘れたの? こっちだってあんたの裸撮ってるんだから。そんなことをしたら、あんたの裸だって……」
「忘れてなんかない。でも、それならお互い道連れってことね」
「パイパンのあんたの写真の方が、もっと恥ずかしいけどいいの?」
「そんなの大して違わない。漢文で習ったよね、五十歩百歩って言うじゃないの。どうせあんたも終わりよ」
恵美はまるで怯まなかった。切り札のつもりで出したカードも簡単に返され、瑞華はいよいよ窮することになった。
「このぉ、恵美ぃーっ!」
瑞華は吠えるように絶叫した。こうなったら実力行使しかないと、瑞華は歯を剥いて般若のような形相を浮かべ、全裸のままたわわな胸を揺らしつつ、恵美に向かって突進した。
だががむしゃらにスマホを奪おうとする瑞華を、恵美はさっと躱す。もう一度掴みかかろうとしたとき、その拍子に瑞華は自分が脱ぎ捨てたブラウスに足を滑らせ、前のめりに転倒してしまった。
無様にもばったりと身を這わせる瑞華。床に押しつけられた豊満な乳房が、いびつに潰れて歪む。
そこから瑞華が顔を上げて見たときには、恵美はドアの手前にいた。部室の外まで逃げられたらおしまいだ。まさか裸のままで追うわけにはいかない。
「公江、なんで見てるの? 恵美を捕まえて! 朝菜も!」
このままではまずいと思い、瑞華は身を這わせた姿勢のまま、苛立ちも露わにして2人に加勢を呼びかけた。
だがその後ろから、またシャッター音が響いた。
パシャッ。
まさかと思い、半分だけ身を起こして向き直ると、そこには公江の構えるスマホがあった。
パシャッ。
瑞華が向くのとほとんど同時に、さらにシャッターが切られた。
気がつけば瑞華は両脚も開いていて、胸も局部も隠していないあられもない姿勢。そのままをカメラに収められてしまったのだ。
「ちょっと、何するのよ!」
公江のとった行動に、瑞華は唖然となる。