腐食していく二人-4
「……させない…ッ……そ、そんなコトさせないッ!」
絶望感に満ちた現実を彼方まで蹴り飛ばすべく、明日香の爪先や踵が鉄パイプに沿って走った。
相変わらず間違った&向にしか進まぬ脚に苛立つ明日香は拳まで振ろうとするが、両手首まで固定された腕は不自由極まりなく、勢い余った肘だけがピョンピョンと上下に振れるだけだ。
『クククッ!だよなあ?行方不明になった大切な彼女が他の男とイチャラブセックスしてて、しかも其れのDVDが自宅に届くなんて有り得ねえよなあ?』
「だ、だから《させない》って言ってんのよッ!!カメラもパソコンも、みんな壊してやるからあ!」
『でも俺達はやっちゃう≠だなあ。そうだ、イイ事考えた。斗真くんには《特別編集》したDVDをプレゼントしようよ。ドエロい場面だけ繋げたヤツとか良くない?』
『そうだなあ。〈可哀想なヤツはヌケない〉とかほざくヘナチン野郎かもしれねえし、ちょっとだけマイルドに仕上げてやるかあ?』
涼花をあそこまで苦しめた連中だ。
遊び半分でそこまでしない≠ニは、とてもではないが言い切れない。
いや、編集の仕方では如何様にも出来る。
現に意図的に場面を切り取り、全く違うニュースとなってテレビで取り上げられて問題になった……とのネットニュースもあるではないか……。
『……御主人様、ちょっとペットを借りるぜ』
「ッッッ!!??」
変質者は素直に従っていた。
あの三人組は涼花を受け取ると口にピンク色のボールを突っ込み、そして胸や太腿や脹脛に鎖の付いた黒革のベルトを巻きつけ、天井から下がるチェーンブロックのフックに鎖を引っ掛かて涼花を吊るした。
明日香は絶句した。
凧のように宙に浮いた涼花はガニ股の中心部から鮮血と精液を垂らし、物も同然の扱いをされた恐怖に瞳の色すら失せていた。
『見ろよ明日香先生……可愛い《サンドバッグ》だろ?』
男はスゥ…っと背後に回ると、当然とばかりに髪を撫で回し、その後に頬に指先を当ててきた。
まるで自分の彼女とでも言いたげな態度に明日香は激昂し、その大きな口を開いて不埒な指に噛みつこうとした。
しかし、指は瞬時に姿を消し、空振りに終わった明日香の前歯はガチンと音を発てて衝突するだけだった。
『ブチギレてて俺の話を聞いてねえ、か……なあ、俺らに何かあれば、涼花の上の口≠ゥらも血ぃ噴かせてやるぜ……アイツはもう撮影が終わってるしなあ……用済みっていやあ用済みなんだ……』
「ッッ!!??……な…何よそれ…ッ!?」
明日香は恐怖を新たにするしかなかった。
金を稼ぐ為に必要な撮影が終わったから、もう涼花は《要らない》と言っている。
そして歯向かうならば拳による暴力も辞さないと脅迫してきたのだ。
「そ…そんなコトで私を……ッ!?」
男の人差し指が、明日香の唇に触れてきた……下唇をプルンプルンと揺らし、上唇をそっと撫でていく……明日香は噛みつきたくなる衝動を必死に堪え、奥歯を噛み締めて鳴らしているのみ……。
『……いま昼を過ぎた頃かな?涼花の中学校は大騒ぎになってるか……ん?斗真くんも心配して、電話をかけまくってるかもなあ?クククッ!川底に捨てられたオマエのスマホに届いてるかなあ?』
「ッッッ!!!」
皆んな必死に捜しているはず……。
自棄をおこして涼花に何かあれば、悔やんでも悔やみきれない……。