広まる噂 嫉妬の怖さ-3
それから翌々日、水曜日の放課後だった。部活に入っていないみさきは、放課後は図書室で本を読んだり、勉強したりして過ごすことが多い。塾やピアノのレッスンがない日は、今日のように部活をやっている生徒たちの練習が終わる時間までいる。父親と二人暮らしの彼女は、早く帰っても家には誰もいないからだ。
そうして、ようやく帰途に就こうとして校舎を出たみさきを呼び止める声があった。
「相生さん、ちょっと話があるから来てくれる?」
みさきは驚いた。ほとんど話したことのない子から突然声をかけられたからだ。
声をかけた赤倉瑞華とは、転入した2年のクラスでは一緒だった。派手な雰囲気で気の強い子で、いつも何人もの女子をリードしていたことぐらいは覚えている。けれどもタイプが違いすぎ、内気で人付き合いの狭いみさきならなおさら、わずか3か月の間で交流はなきに等しかった。瑞華からすれば、みさきのようないかにも地味そうな子は、転校してきたからといって、その頃はただ眼中になかったのだろう。
「あの、何の話ですか?」
みさきは尋ねた。瑞華の険しい表情と口調に、何かただならぬものを感じていた。
だが瑞華は答えることなく、「いいから、来て」と、有無を言わさず手を引いていった。同じ女子中学生であっても、見るからに健康的で大人びた瑞華とスレンダーで儚げなみさきとでは、体型からしてあからさまに体力が違う。ほとんど抵抗しようもないまま、瑞華に強引に連れられていく。
どうして? 私が赤倉さんに、何か恨まれるようなことをした覚えなんてないのに……。みさきはただ不安で戸惑うばかりだ。引っ張られていく途中で尋ねても、何も答えてはくれない。
そして着いた先は、プール近くで学校でも辺鄙な所にある、水泳部の部室だった。放り込まれるように中に連れ込まれると、そこには2人の女子生徒が待ち受けていた。佐藤朝菜と小森公江。朝菜はみさきと今年同じクラスだが、ほとんど話したこともない。公江はせいぜい水泳部長として名前を知っているぐらいだった。
瑞華はテニス部所属だが、ここに連れてきたのは部活の時間も終われば近づく人もほぼいないような場所だからだ。水泳部長の公江にこっそり合鍵を作らせ、練習後にいったん施錠した後も利用できるようにしておいてある。普通に溜まり場としても使うが、前に抜け駆けして浩介に告白した後輩女子を制裁したのも、この部屋だ。