血統書つきの美少女-9
涼花の視界の下方……スカーフでグルグル巻きにされた制服の前部の向こうに、赤く膨れた乳首の先端が見えた……。
こんなに充血している乳首など自分自身でも見た事がなく、これがこの男の手によって引き起こされたという現実を目の当たりにした涼花は、強烈な嫌悪感の矛先を自分にも向けてしまっていた……。
『気持ち良いって顔しちゃってぇ……もう明日香先生も諦めちゃってるねえ?「涼花さんは変態さんのペットになりました」って』
涼花の意識の混乱に乗じて、佐々木は卑劣な台詞を吐きつけて責めた。
明日香は首をブンブンと左右に振って其れを否定したが、既に疲労困憊な身体はすぐに沈黙してしまった。
『女の子はね、気持ち良いコトされちゃうと〈甘えっ子〉になっちゃうんだよ?「もっと撫で撫でされたいの」「可愛い私をもっと愛して」って甘えちゃうんだ……気づいてない?今のすーちゃんの顔はトロトロに溶けちゃってる……さっきまでと全然違ってるよ?』
何もかもが理解不能だ。
少しも気持ち良い≠ネどと思っていないし、甘えたい≠ネど死んでもあり得ない。
だが、いま自分の身体に起きている恥ずかしい反応を、涼花はきちんと説明が出来ない。
この疲れきった表情筋が《どんな顔》を作り上げているのかすら、自分自身にも分からない。
(いつまで触ってるの…?私の身体はあなたの物じゃないのに…ッッッ)
ピン!と張り詰めた乳首は直立を維持しようと固まっており、弄くり回してくる指先に好いように弾かれる。
呼吸は無意識のうちに寸断され、小さな身体は不慣れな跳躍を止められない。
確かな性知識を得ていない涼花は混乱に狼狽え、望まぬままに変質者の誘導に導かれそうになってしまっていた。
「……ひぐッ…ひうッ……か、返して…ッ……私の全部…ッ……あ、明日香先生も返してよおッ!」
涼花と明日香の人生は、もうメチャクチャだ。
異性に対する認識は、もはやまともではなくなった。
植えつけられたトラウマはもう癒えないだろ
う。
もしも捜査の甲斐あって救い出されたとしても、昨日までと同じ生活はもう送れない。
女優になったからこんな目に遭ったのではなく、女性に生まれてしまったから、こんな酷い事態に巻き込まれた。
ズタズタに傷ついた涼花の心は全てを否定するまでに追い込まれ、そして、二度と戻れぬ過去へと退行するまでになってしまっていた。
『返すぅ?ボクは何も奪ってないよ?ボクはすーちゃんに快感を《与えてる》んだ。ペットになれば気持ち良いコトしか無い……』
「私はペットなんかじゃないぃッ!!ヒック!ヒックッ!わ、私はあなたの物じゃないのッ!ううッ……か…勝手なコトばっかり言って…ッ……なにがペットよバカあッ!」
ここまで追い詰められて尚、涼花は佐々木に屈しないと叫んだ。
それはそうだろう。
拉致されて監禁されてからまだ数時間しか経っていない。
今まで人間社会に生きてきた全てを捨て去るには時間が足りてないし、生意気にも持ち合わせている自尊心が邪魔をしているのは想像に易い。
「もう私に構わないでッ!気持ち悪いコト私に…ッッ……イヤッ離してえ!!」
佐々木は左脚の膝を立てると、そこに涼花の胸板を乗せた。
俯せの恰好で喚き散らす様は喧しく騒ぐ蛙そのものであり、その無様を曝す涼花の泣き顔を捉えるべく、伊藤は床にカメラをつけて見上げるように撮り始めた。