卒業-2
凶器を持った男からの奇襲すらも跳ね返せる体術の持ち主。
本来ならば完敗などあり得ない相手に、好いようにされている悔しさと激情は如何許りだろうか。
『黙ってヤラれちゃうんだあ?分かってるんだよ、女ってのは何だかんだ言ってもエロいコトが大好きな生き物なんだって』
(ち、調子に乗って…ッッ!こ…こんな奴なんかに…私があッ!)
腰ベルトと足枷は30センチ程の長さの鎖で繋がれ、そして手枷は首輪に付いている金具へと連結された。
革と鎖の拘束が完璧に施された美桜は、一度は完封したはずの佐藤の足元で、仰向けにされて転がっている。
革袋を着けられた両手は耳の側に添えられ、伸ばせぬ脚はガニ股となってタイトスカートを捲り上げ、肌色のストッキングから薄紫色のパンティを透けさせている。
それはひっくり返ったカエルのようでもあり、飼い主に服従を訴える忠実な飼い犬のようでもある。
掴めない・殴れない・蹴られない……物理的な攻撃を全て封じられた美桜は極めて〈安全〉な女であり、それはかずさや由芽と同じ運命を辿るしかないと告げられたのと同義である。
『どうする。このまま撮影続行か?』
『ん〜……美桜ちゃんの紹介だけは終わらせておこうかな?でなきゃ何で美桜ちゃんが一緒に居るのか、お客様が分からないままになっちゃうし』
「ッ……!!!」
佐藤は革張りの大きな椅子を持ってくると、その椅子に美桜を座らせた。
美桜の眼前には逆Y字の形をした奇妙な拘束台が置かれていた。
赤い革張りのマットが巻かれたそれは斜め40度ほどの角度になっている台で、その天辺には硬いゴムで作られた半円形の拘束口が備わる。
なんとも不気味なその台のすぐ側には、力なく手足をパタパタと動かしている田名部麻友が、ゴロリと転がされた。
「……ッく!は…なしなさい…ッ!」
佐藤が美桜の前髪を掴んでカメラマンを手招きすると、瞳がカッと開かれて二人を交互に睨んできた。
この生意気な瞳が如何にして哀しみに煌めいて砕け散るのか……それを考えただけで股間は痛いほどに膨れ上がる。
『ねえ皆さん、結構エロい顔してるでしょう?コイツは斉藤美桜っていう保険のセールスレディーで、田名部麻友を拉致する時に邪魔してきて、オマケに警察に通報しようとしたサイテーなバカマンコなんですよぉ?』
いつものようにカメラに免許証を曝し、そして社員証も一緒に撮らせた。
当然のように美桜は焦りと怒りを露わにしてきたが、この言動こそがこの作品が《本物》である事を物語ってくれている。
『そんなに怒らないでよ、美桜ちゃん。ところでさ、ボクの腕を捻り上げたあの技って何?空手でもないし、もしかしたら柔道かなあ?』
鼻の穴を膨らませながら美桜は睨んできた。
可愛らしいロリ顔をしてても、さすがはかずさと同じ《闘う女》だ。
つり上がった眉が彩りを沿える圧倒的な眼力は思わず気圧されそうになるほどで、しかしながら、その強気な態度は性犯罪者達の征服欲を否応にも擽るものである。
「……合気道よッ…こ…今度は捻るだけじゃ済まさないわよ…ッ!」
美桜の諦めない≠ニいう精神力の強さは、感心すると同時に、逆に言えば滑稽である。
たった今施したばかりの革と鎖の拘束具を、いったい誰が外すというのか?
あの体捌きの凄さを身をもって知った佐藤も、その光景を目の当たりにした男共も、絶対に外したりはしない。
美桜の言う「今度」など永遠に来ない。
くだらない挑発に乗る気など毛頭無かったし、それが証拠に佐藤は口元が見えるくらいにストッキングを捲り上げ、そのニヤついた唇を美桜の眼前で揺らめかせて煽りだした。
『まゆまゆぅ、今のセリフ聞いてたかなあ?君のお知り合いの斉藤美桜ってセールスレディーは合気道の達人なんだってぇ。今からボクらを倒してまゆまゆを助けてくれるってさ』
「なッッ…!!??」
目の前のニヤケ面が退けた向こうでは、複数の男共が麻友に群がり、あの奇妙な拘束台への設置を開始しようとしていた。
恐怖に引き攣る麻友の泣き顔の、その視線は美桜の瞳を貫いてくる。
合気道を体得した武道家だと分かったのだから、その視線に《期待》が満ち満ちているのは至極当然である。
「さ、斉藤さんッッッたすッ助けてえッ!」
「ッ………!!!」