家族旅行での出来事 同窓会タイム 2-1
「限られた時間しかないわ。匠君。
限られた時間をわたしは思い切り楽しみたい。
だって、それこそ何十年ぶりかに匠君の身体を味わえるんだもの。
それだけじゃないわ。史恵もいる。綾乃もいる。
あの頃みたいに……。
ううん。あの頃、したくてもできなかったことにもチャレンジしてみたいの。」
「香澄。君はボクのことを本当に恨んではいないのかい?」
「さっきも言ったでしょ。
匠君は、いつだって……。
そう、別れてからだって、わたしの心の支えだった。
わたしがくじけそうになった時だって、支えてくれたのは匠君だった……。
匠君との思い出が、わたしを支え、励ましてくれて……。
わたしの生きる希望であったり、生きがいであったりしたのよ。
恨んだりしたことなんて、一度もなかったわ。」
穏やかに、匠に話しかける香澄に対して、綾乃の表情は暗かった。
「香澄。そんな匠君を、わたしはあなたから奪ったのよ。」
わたしのことは恨んでるでしょ?正直に言って。」
「綾乃。あなたがどうしてそう思うのか、わたしにはよくわからないわ。」
「だって、わたしは香澄から匠君を奪ったのよ。」
香澄は綾乃の手を取りながらゆっくりと話した。
「綾乃。わたしは故郷を捨てる時、匠君から逃げたの。
匠君と一緒にいたら、絶対に匠君が守ってくれる、
必ず支えてくれるってわかっていて……。
わたしは逃げたの。」
「香澄が?匠君から?」
「そうよ、チャンスだと思ったの。
わたしのことを知っている人間が一人もいないところへ行けば、
もっと違う……誰にも遠慮しない自分になれるような……。
そんな気がしたの。
だから……。妊娠騒動に乗じて故郷を捨てるっていう理由をつけて、
匠君のもとからも去ったのよ。
匠君がわたしを守れなかったんじゃない。
わたしが匠君から逃げたの。
わたしが匠君を……捨てたのよ。」
「…………。」
綾乃は黙ったまま下を向いた。
香澄も、匠も口を開かなかった。
しばらく沈黙が続き、それを突き破るように史恵が言った。
「もう、そういうことでいいんじゃない?
匠が心配するほど、香澄は傷ついていなかったってことよ。
そして、綾乃が遠慮するほど、香澄はこだわってはいない。
ね?そうでしょ?」
「ええ。簡単に言ってしまえばそういうことだわ。
過去の気持ちを伝えたり後悔したりすることに、
せっかくの時間を使いたくないの。
せっかくの同窓会タイムよ。」
「だからこそ、気持ちの整理が必要なんじゃないか。
そのために雅和さんも時間をとってくれた……。」
匠は史恵の言うことも、香澄の言うことも、今一つ納得がいかない様子だった。
「う〜ん。それは違うと思うわ。
雅和は……。
あの人は、その後の夫婦交換を中途半端なものにしたくないっていう思いで、
わたしたち4人に時間をくれたのよ。
思い残すことがないほどたっぷりと、4人で楽しむようにってね。」
「わだかまりを解決しろっていうことじゃないって言うのかい?」
「わだかまりは解決した方がいいとは思っているだろうけど、
それだけで時間を終わらせるようなことはするなとも思っていると思うわ。
だから匠君ともたっぷりと楽しむようにって……。」
「香澄の旦那様って、寛大なのね。」
「そうじゃないのよ。
自分の欲望に忠実なだけ。
夫婦交換の時、わたしが匠君だけに関わったらつまらないと思ってるの。」
「う〜ん。夫婦間のことは複雑で、よくわからないわ。」
「史恵。あなたと哲郎さんとの間にだって、
あなたたちにしか分からないものがあるでしょ?」
「あら、うちは快楽中心主義。それがすべてだわ。」
「言い方が違うだけよ。わたしと雅和も同じ。」
「あの……。」
綾乃が申し訳なさそうに香澄の顔を見ながら言った。
「綾乃……。」
「残念ながら、わたしと匠君とはそういう感じじゃないの。
夫婦生活も、もうずいぶん無いままだし……。」
「綾乃。それも、この同窓会タイムの間に解決しない?」
「わたしたちの夫婦間のことまで解決?限られた時間の中で?」
「あのね。匠君の……あの症状って……きっと精神的なものだと思うんだ。
さっき話した征爾さんの息子さんも、
一番の原因は精神的なものだったと思うの。
わたしには、匠君が綾乃に勃起しない原因や理由が、
どんなものなのかはわからないけれど、
それが解決すれば、綾乃たちの夫婦仲も元に戻るはずでしょ?」
「確かにそうかもしれないけれど、そんなに単純なものなのかしら。」
「人間ってね、考え方一つ変えるだけで、人生が激変するものみたいよ。」
香澄は自分自身のことを思い返しながら言った。
「そうなの?」
「ええ。現にこのわたしがそうだもの。
だから、考えるよりまずは始めてみない?
懺悔したいことや告白したいことがあったら、
セックスしながらすればいいじゃない。」
「でも、そう簡単に割り切れるかしら……。」
「だから、始めちゃうのよ。
気持ちや心が割り切れるまで待っていたら、
それこそ時間がいくらあっても足りないわ。
始めちゃえば心より身体が勝手に動くはずよ。
気持ちが割り切れなくても身体が欲するはずでしょ?」
「なるほどね。香澄の言うことには一理あるかも。
匠のあそこだって、香澄に入りたくてうずうずしてるんでしょ?
それとも、香澄がもしも過去について拘りを持っていて、許さないと言ったら、
香澄を抱くのも諦めるつもり?我慢できるの?匠。」
「なるほど。昔のこだわりを捨てなければ香澄を抱くことができない、となれば……。」
「でしょ?綾乃もそう思わない?」
そう言った香澄の目は輝いていた。