家族旅行での出来事 同窓会タイム 1-4
「香澄。まさか会えるなんて思ってもみなかったよ。
何年ぶりだろうね。」
「…………。」
「一時期、ボクは香澄のことを探したんだ。
でも、君は故郷を捨ててから誰とも連絡を取っていなかった。
ボクにも行き先を告げずに、いきなりいなくなってしまったからね。」
「…………。」
「ああ。そうか。ボクがなぜ、綾乃の一緒にいるのか、納得できないんだね。
君を裏切ったわけじゃないんだ。
綾乃と一緒になったのは、そんなに昔のことじゃない。
君と会えなくなってから、ボクは長いこと、一人でいたからね。」
「…………。」
「香澄。何か言っておくれよ。
怒ってもいい。怒鳴ってもいい。叩きたいなら叩いても構わないさ。
ボクはあの時、君を探し出すことができなかった。
君を守ることも、君を支えることもできなかった。
許してくれ。」
「………匠…君……。」
20数年ぶりの再会だった。
もちろん、その間ずっと匠のことを忘れずにいたわけではなかった。
匠を忘れられずに、匠を忘れるために男たちに抱かれた時もあった。
それがいつの間にか、男に抱かれるために抱かれるようになり、
男たちに抱かれることから離れられなくなった。
それ以来雅和と結婚するまでの間、
香澄は本当の意味で男性を好きになったことはなかったのかもしれない。
男性はセックスをするためだけの存在であり、
自分に限りない快感を与えてくれるための道具でしかなかった。
しかし、この旅行に来て、史恵と再会したことをきっかけに、
香澄の心の中は匠のことで一杯になっていた。
ずっと押さえつけていた感情が、史恵という刺激によって、一気に解き放たれたのだ。
今、目の前に、その匠が立っていた。
あのころと比べれば、相応に年は取っていたが、屈託のない笑顔に変わりはなかった。
細身で引き締まった身体も、あのころと比べてそん色なかった。
しかし、決定的に違っていたのは、その股間だった。
高校時代から匠のペニスは、仲間の間でも評判になるほど大きかった。
匠のペニスのサイズを知る人物で、
香澄の初体験の相手が匠だと知った人物は、
必ずと言っていいほど、香澄に同情したものだ。
もちろん、初めての香澄にとっては、匠のペニスが初めてのペニスであり、
初めて勃起状態の匠のペニスを見て、
勃起状態の男のモノとは誰もがこういうものなのだろうと思ったのだ。
女性は誰でも、こうしたものを、当たり前のように、
自分の身体の中にきちんと収めることができるものなのだ、
香澄は匠のペニスを見て、そう思い込んだ。
そんな香澄でありながら、20数年ぶりに匠のペニスを見て、今初めて恐怖を覚えた。
(こんなに……これほどまでに……。)
「香澄。驚かせちゃったね。これでも少し収まっている状態なんだ。
史恵が鎮めてくれたからね。
この状態じゃ、なかなか人前にも出られないし、
スピーディーに動くこともできない。
情けないもんさ。」
「…………。」
「それでいて、セックスだけは万能さ。
持続力も、勃起力も、回復力も、若い頃以上。
むしろここ何年かは、症状の進行に合わせて、ここだけが若返っている感じだよ。」
「…………治療はしているの?」
長い沈黙の後に、香澄がやっとの思いで発した言葉だった。
「していると言えばしているが、全く効果なしさ。
そもそも原因がわからないんだ。」
「わたし……同じような症状になってしまって……
でも、治った人を知っているわ。」
「治った?完治したっていうのかい?」
「ええ。わたしの親しい人よ。
っていうよりも、うちの娘の彼氏なの。
治したのは……治したのも、その娘よ。」
「香澄の娘さんが?この症状を治したっていうのかい?」
「ええ。信じられないでしょうけれど、間違いないわ。」
「だって、原因さえわかていないんだぞ?」
「ええ。その症状になてしまった男の子のお父様が、医療の研究をしていて……。
治療法を見つけて、その治療法を実際にその男の子に施したのが娘なの。」
「香澄。本当なのかい?」
「匠さん。本当の話です。」
話に割って入ってきたのは香澄の夫、雅和だった。
「こちらは?香澄の旦那様、かな?」
「初めまして。香澄の夫、生野雅和です。
あなたの噂は何度も……。」
「いや、失礼しました。わたし、本村匠です。
香澄さんとは高校生の頃……。」
「ええ。よく存じ上げています。
それより、その治療法のことですが、
今、香澄が言ったことはすべて本当です。
わたしたち一家も、その方のご家族とは仲良くさせていていただいています。」
「あの……。雅和さん。
その治療法を見つけたという方を紹介していただくわけには……。」
綾乃がすがるように雅和を見つめながら言った。
「もちろんです。ただ、今回の家族旅行、
わたしたち、家にスマフォを置いてきたんです。
家族だけの時間を大切にしようって言って……。」
そこまで言って、雅和はあれ?っと不思議そうな顔をした。
「あれ?香澄。
君はこの旅館の予約をする時に、スマフォを使ってなかったか?」
「だって、必要になる時があると思ったらから、こっそり持ってきたのよ。」
「なんだ、あれほどおいて来ようと言ったのに。」
「でも、事実、役に立ったでしょ?」
「だったら、今すぐに征爾さんに連絡して……。」
「それが……。」
「どうしたんだ?」
「いえ、あのね。スマフォの連絡先……削除しちゃったの。」
「削除した?」
「ええ。この前、うっかりして……。」
「今すぐに確認してみろ。」
「ええ。ちょっと待ってて。部屋に行って取ってくるわ。」
香澄が走り出そうとすると、匠がそれを止めた。