家族旅行での出来事 夫婦交換の余韻-2
(でも、本村っていうだけじゃ……。
そうだわ。単に名字が同じっていうだけだわ。
きっとそうよ。だって、そんな偶然が……。都合よく何度も起きることなんて……。
でも、昨日、史恵は、
わたしが泊っているということをその人に伝えたら、
予定を早めて今日の午前中には着くようになったって言っていた……。
わたしのことを知っている本村なんて言う人は、やっぱり匠君しかいない……。
それに、わたしが誰なのか聞いても、史恵はお客様に頼まれたからと言って、
誰だか教えてはくれなかった。
きっと、匠君がわたしを驚かそうとして、口止めしたんだわ。
えっ?でも……。そのお客様……。
この部屋で、おもてなしをするって言ってた……。
ということは、史恵は前にもこの旅館で、
匠君をおもてなししたことがあるっていうこと?
えっ?匠君だけ?
当然、奥様も一緒、よねえ。
えっ?誰なんだろう。わたしの知っている人なのかしら。
ううん。でも、それはないわ。
匠君だって、高校を卒業してからいろいろあっただろうし。
わたしが故郷を捨てた後に、匠君との関係も切れて……。
その後、どこかで出会った人と結婚したんだわ。
でも、その奥さんも、史恵たちとの夫婦交換に加わるっていうこと?
そういう奥様ってことなの?
つまり、匠君って、そういう人と結婚したってことなんだわ。)
「香澄。どうしたんだ?」
香澄がいきなり黙り込んでしまったのを心配して、雅和が声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい。
あら?雄大さんと利彦さんは?」
香澄は驚いて顔を上げ、周りを見回した。
「おいおい。気が付かなかったのかい?
さっき、着替えて、あいさつして戻っていったじゃないか。」
「あ、ああ。そう、だった、わね。」
「香澄さん。大丈夫ですか?睡眠不足とか……。
それとも……物思いにふけっていたのかしら……。」
いつの間にか着替えを終えた真央が興味深そうに香澄の顔を覗き込んだ。
「あ、大丈夫。ちょっとボーッとしちゃっただけよ。」
「わたし、そろそろお兄ちゃん、起こしてきます。」
真央はそれ以上、香澄に聞こうとはせず、
意味ありげな笑みを浮かべながら言った。
「あ、ええ。そうね。もうそろそろ、ええ。」
明らかに動揺している香澄を見て、雅和は香澄の額に手を当てた。
「熱でもあるんじゃないのかい?それとも、昨日の疲れが出てきたのかな?」
「疲れてなんか、ないわ。
あの飲み物のせいか、凄くすっきりした気分よ。」」
強がりではなかった。
夜中に飲んだあの飲み物のおかげなのか、疲労感はなく、すっきりとした感じだった。
「すごいよな。あの飲み物。あれを売るだけでもいい商売になるだろうに……。」
確かに雅和の言うとおりだった。
あの飲み物を増産して売れば、
旅館業などしなくても十分に食べていけるのではないか。
それをせずに、接客業をしているのは、
もしかしたら史恵も哲郎も、こうした接客が好きなのかもしれない。
「接客業が好きなのかな。
いや、おもてなしが好き、っていうことかも知れないな。」
香澄は夫のその言葉を聞いて、
夫はもしかしたら自分以上に史恵のことがわかっているのかもしれないと思った。
香澄は棚に置かれた真新しい浴衣を羽織った。
これも朝になって、史恵たちが用意したものに違いない。
(史恵たちって、どのくらい寝たんだろう。身体、大丈夫なのかしら。)
部屋のインターフォンが鳴った。
帳場からだった。
「お目覚めですか?」
史恵の声だった。
「あ、史恵。部屋、片づけてくれてありがとう。」
「とんでもございません。当然のことでございます。
そろそろ朝食の御用意ができますので……。
よろしければ皆様ご一緒に、大広間の方へお越し願います。」
「わかりました。みんな、お腹がすいていると思うわ。
あんなに激しく動き続けたんだもの。」
「そう思って、精のつくものをご用意させていただきました。
今日も、おそらくハードな一日になるかと……。」
(ハードな1日……。
史恵はいったい何を指してハードな1日なんて言うのかしら。)
香澄は雅和たちに声をかけ、大広間へ向かった。
孝志と真央は真奈美を真ん中に挟んで、香澄たちの前を歩いている。
「本当に、兄妹みたいね。あの3人。」
「ああ。やっぱり真奈美にも妹か弟を作ってやればよかったな。」
「どうする?チャレンジしてみる?」
「真面目に言ってるのか?」
「ええ。あなたにその気があるかどうかは知らないけれど……。」
「いや、どうしてもって言うなら……。まあ、無理なことはないだろうけど。
君だって、まだ現役だろ?」
「現役って?あ、妊娠できるかどうかってこと?
それって、あなた次第でしょ?
でも、真奈美が欲しいのは赤ちゃんじゃなくって、
あんな風に年の近い兄弟だわ。」
「そうだな。赤ちゃんをあやしたいわけじゃないからな。」
「でも、方法がないわけじゃないわ。養子縁組とか……。」
「なるほどね。そういう手もあるか。」
「それに、その方が、即戦力よ。」
「即戦力?」
「ええ。今から生んだとしたら、
一緒に楽しめるようになるのは10年以上も先の話でしょ?
養子縁組なら、その日からでも可能だわ。」
「もしもそうするんだったら、
ボクはお試し期間を設けてからの方がいいと思うな。」
「お試し期間?」
「そ。血のつながりはないとは言っても、
形としては近親相姦になるわけだ。
身体の相性も試しておく必要があるだろ。」
雅和は香澄の身体を抱き寄せ、さりげなく香澄の尻に撫でながら言った。