『真夏の遊戯 side:B』-1
「っち。つまんねーな」
ごろんと横になる。
が、地面は木の根だらけで、ゴロ寝にはおよそ、つーか全然適してない。
俺―糸井 神楽(かぐら)は何も好き好んでココにいるわけではない。
なにが悲しくてこんな暗い林の中でじっと縮こまってなきゃならんのだ。
俺はナチュラリストじゃねぇ。
足元にはモンスターの被り物が転がっている。
つま先で蹴飛ばした。
誰が用意したかしらんが、このクソ暑い中、こんな酔狂なモンを身につけるわが身のわびしさよ。
つまりは、俺は肝だめしのオバケ役なんである。
学校行事のキャンプの企画だ。
男女でペアを組むのだが、男子生徒がどーしても余ってしまうので、厳正なる抽選の―しょぼいクジの結果、この大役が与えられたわけである。マイガッ。
俺だって、オバケ役なんかよりも怖がる女の子に頼られながらリードしてやりてぇ。
すがりつく彼女を優しく抱きとめ、あわよくば…。
それくらいの妄想ぶっこいたってなんの罪になるよ。
そりゃ、意中の女もいるわけでもないが。
初めの数組はやっかみもあって景気よくおどかしてやった。
しかし、それは徐々にムナシサを増すばかり。
あるいは男女の密着感を生み、あるいは「お疲れ」などのつまらん労いの言葉をもらったり。
「クソ、つまらん」
こんなことなら酒でももってくりゃよかった。
やる気も失せて何組か通りかかってもスルーしている。
「…この辺にするか?」
「…えー、ほんとにするの?」
茂みを挟んで俺の背後から声がする。ご新規のペアだ。
「なんかコーフンするじゃんよ」
「そればっかしか考えてないんだから。サル」
オイオイ、やらかす気かよ。
しかもこの男女の声には聞き覚えがある。
抵抗しろ、がんばれユカ!
「いいじゃん…」
「やっ…てば、んっ…バカ…」
熱を帯びた女の声。
げ、こんなとこでおっぱじめやがった。
「コラ、アツヤ」
居ても立っても居られず、俺は声をかけた。
「おわぁっ!神楽じゃねぇか。んだよ…、オバケはオバケに徹しろ。はずかしーじゃねぇか」
クラスメイトのアツヤが茂みを覗き込んで俺の姿を発見した。
「俺はお前等がはずかしーわ」
「べっつに俺らだけじゃねーよ、こんなんしてんの」
「お、お前わ皆が死んだらお前も死ぬのかっ!」
自分を正当化するアツヤにいきり立った。
「わ、悪い悪い。他さがすわ」
俺は「しっしっ」の手振りをする。
「するのかよ!」と心の中で突っ込みつつ。
二人がいってしまって、ポケットにタバコがはいってたのを思い出した。
「ふぅ〜…」
白い煙を吐く。
「あいつら…、今頃してんのかな…」
想像するとむかついてきた。
アツヤの言では他にも「なさっている」ヤツラがいる…。
「こんなウツクシイ大自然の中で…!けしからん!」
心にもないことをゆってみた。
いかんせん…、面白くなくなるばかりだ。
シルバーのアッシュトレイにタバコを擦りつけて消した。
その辺、俺はモラリストだと思う(まだ未成年だけど)。
なんでこんな俺なのに彼女が出来ませんか。
そのとき、足音がした。お客さんだ.
アツヤの例もあるし、とりあえず仕事しますかね。
マスクをかぶり、茂みから出た。
「がお〜〜〜〜」
もちろん、声に張りもねーけど。いちおう、形だけ。
「きゃああっ!」
お、意外に好感触。
マスクの僅かばかりに開けられた穴からそれを見ると、女の子一人だった。
驚いたせいかへたりこんでる。
「おいおい、大丈夫か?」
マスクを取って駆け寄る。
「なんだ、葵(あおい)じゃねぇか。どしたんだよ」
「ぁ…、神楽ちゃん…だったの…?」
腕を引っ張って起こそうとしたが、葵はあわてて自分で立った。