拭いきれぬ幻想-5
「うッ…わ…ッ!?わあぁぁあぁああッ!!??」
男の身体を跨いで腰を下ろした母は、薄目を開けながら涙を流し、眉間を持ち上げて流し目を送ってきた。
それは愛からすれば軽蔑すらも構わないという決別の表情であり、男の肉体を貪欲に屠りたいという悪食な本性の表れとしか受け取れなかった。
{気持ち良くって止めらんねえよなあ?どうなんだよ、はっきり喋ってみろよぉ}
{ぎ…ひぃ!き、きもッ…はひッ!?き…気持ちッ…良い…ッ}
いきなりモニターから音声が流れてきた。
聞いただけで鳥肌が立つような男共の上擦った気味悪い声と、母の荒れた吐息が愛の鼓膜を打つ。
{俺のチンポが気持ち良くって腰が止まらねえのか?そんなに俺のチンポが好い≠フかよぉ?}
{ぐぐッ…ち、チン…ポッ…んうッ!?チンポッ…あふぅ!い…好い…ッ!}
{イヒヒ!?年増女はどスケベだってのは本当らしいなあ?顔も名前も知られてるクセによくやるぜ}
{ホント呆れるなあ。へへッ…もう目がイッちまってるよぉ}
笑われながら侮辱の言葉を浴びせられても、母は男から離れない。
恥ずかしい固有名詞を口走り、カエルの如き無様なガニ股になりながら自ら腰を振って貪っている。
もう母ではない……恥知らずな別の誰かだ……。
『エヘヘへッ?相変わらずエロくてイヤラしいなあ〜。ねえ愛ちゃん、おじさん雪絵ママでオナニーしちゃってイイかなあ?』
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
生臭い口臭と興奮に気色ばんだ声が愛の鼓膜に絡みつく。
もう本当に嫌だ。
この部屋には一秒足りとも居たくない。
こんな汚らしい奴らとは付き合いたくない。
愛は自分を取り囲んでいる全ての物を振り払うように腕を振り、男共が作っている三角形の中から飛び出そうと足掻いた。
この突然の逃走に油断していた佐藤の腕からリードが抜け、慌てて首輪を掴もうとした高橋の手も空を斬る。
膝丈の長さのスカートをはためかせる愛は目に入ったドアに向かって走り、迷わずにドアノブに飛び掛かっていった。
「げふッ…!!がッ…あ"があ"ッッッ」
一番素早かったのは佐々木であった。
床を滑っていくリードを踏みつけると、躾の悪い犬でも引っ張るようにリードを力一杯に握って愛の逃走を止めてしまった。
その情け容赦のない手綱捌きに愛は激しく咽せながら尻もちをついて倒れ、そこを中心とした新たな三角形が形作られた。