家族旅行での出来事 1日目 夜の狂宴 その2-2
高校時代の史恵にはそうした知識も技術は当然なかったはずだ。
確かに性格的にはSの要素はあったが、性的な行動では、むしろМだった。
(でも、あれから何年もたっているわけだし……。
ううん。でも、史恵はどちらかといえばされる側。
だとすれば、史恵の旦那さん?)
香澄はこの部屋のそこここに裸の男女が絡み合い、群がり、重なり合い、
中には縄で縛られ、天井から吊るされた女たちの姿を想像していた。
(今夜はまさかそこまではいかないだろうけど……。
征爾さんたちを誘えば、それも可能だわ。)
「しかし、本当に凄いな。」
夫がため息交じりに言った。
「ええ。今夜はいったいどうなるのかしら。」
そう言った香澄の言葉は不安からではなく、期待に溢れたものだった。
「ねえ、ところであなた。史恵たちが来るのは10時ごろだって言ってたわ。
それまでの2時間は、どう使うつもり?」
「どうって?あの松本兄妹と過ごすんだぞ?」
「ええ。でも、あの兄妹が来ると、男が2人、女が3人よ。
一人あぶれることになるわ。」
「一人あぶれる?ああ、そういうことか……。」
「どうする?史恵に頼んでみる?」
「誰か男を一人、調達してくれってかい?」
「だって、あなたはあの娘さんを抱くでしょ?
あの青年は真奈美を抱きたいに決まっているでしょ?
そうなると、わたしがあぶれるじゃない。」
「香澄は一人じゃ我慢できないだろうしな。」
「ええ。わがまま言うようでごめんなさい。でも、正直、今夜は我慢できないわ。」
「あれ?急に素直だね。そこまで吹っ切ったんだ。」
「だって、せっかくの機会でしょ?
わたしだって、正直に言えば、新しい物好きなところだってあるのよ。
あなたばかりが若い子に目が行くだけじゃないんだから。」
「それにもうオナニーじゃ我慢できないっていったところかな。」
「やだ。誰がいつオナニーなんかしたっていうの?」
香澄はそう言いつつも、夫がトイレでのことに気づいているのではないかと疑った。
あるいは自分がいない間に、真奈美が話したのだろうか。
しかし、夫に気づかれないようにそっと声をかけてくれた真奈美が、
お母さんはオナニーしに行っただよ、などとと夫に言うはずがなかった。
だとすれば、単なる推測で言っているのか、
あるいはかまにかけようとしているかのどちらかだ。
「いや、冗談だよ、冗談。
じゃあ、ボクが真央ちゃんと香澄の二人を相手にする、っていうのはどうかな。」
「無理しなくていいわ。
あの可愛らしい真央ちゃんをじっくり楽しみたいのが本音でしょ?
わたしに気を遣わなくてもいいわ。」
「いや、気を遣って言ってるわけじゃなくって。
ボクだって、二人を一緒に相手してみたいなって……。」
「無理よ。どうせあなたは真央ちゃんメインになるわ。
そうなったらわたしの方が物足りなくなりそうだもの。」
「う〜ん……。じゃあ、道具の世話にでもなるか?」
「道具?」
「ああ。これだけの設備があるんだ。
バイブやらローターやら、そういった類のものだってきっとあるだろ?
その力も借りてっていうのはどうかなと思って。」
香澄はあのトイレに用意されていたグッズの数々を思い浮かべながら言った。
「確かに、いろんなグッズはあると思うけれど……。
でも、こんな素敵な場所が用意されているのに、
道具に頼るなんて、あまりにも寂しすぎない?
普段だって、道具になんか、ほとんど頼ることなんてないのよ。」
「まあ、そう言われてみればそうだよな。
ボクも君も、若いころから今まで、あまり道具に頼ったことはない。」
「オナニーするのならわかるわよ。ペニスの代わりに、とか。
自分じゃ舐めたりできないわけだから。
でも、この場所で、一人寂しくオナニーなんかする?
そうしないために、ここにはそれなりの人もいるわけでしょ?」
香澄のいつにない強い口調に、雅和は思わず押し切られた。
「そうだな。やっぱり香澄の言うように、
女将さんにお願いするのが一番かな。」
夫の同意が得られそうなので、香澄は内心ホッとして、帳場に電話をしようとした。
「ねえ、どうしたの、お父さん。」
真奈美にいきなり声をかけられ、雅和は飛び上がるほど驚いた。
「なんだ、真奈美。そこにいたのか。
急に声をかけるからびっくりしたじゃないか。」
「ねえ、お母さんがあぶれるってなあに?」
「なんだ、聞いていたのか。」
「ねえ、だから。お母さんがあぶれるってなあに?」
「真奈美が気にすることじゃないさ。お父さんたちの任せておきなさい。」
「でも、史恵さんに頼んでみる、だとか、男を一人調達する、だとか……。
何か困ってるんじゃないの?」
「まあ、困ってるって言えば困ってるんだけどな。」
「お母さんが物足りなくなるって言ってたよ。
物足りなくなるって、満足できないってことでしょ?
それじゃあお母さんがかわいそうだよ。」
「う〜ん。じゃあ、真奈美が我慢するか?」
「えっ?真奈美が?真奈美、何を我慢すればいいの?」
「あなた。真奈美ちゃんに言っても……。」
香澄は受話器を置き、夫に言った。
まさか親である自分が、娘である真奈美に我慢させるわけにいかないだろう、
だとすれば、やはりここは史恵に頼むしかない。
香澄が改めて帳場へ電話をしようとした時だった。
「こんばんは〜。遅くなりました〜。」
松本兄妹がやって来たのはそんなタイミングだった。