闘牝-2
* * *
同じ頃、東の花道では――。
「相変わらずスゴい人気だな……あ、で、でも、闘牝ではお前のほうが強いから!」
緊張した介添人の言葉を背に受けて、裸の美柚子がクスッと笑う。
「心配しないで。大丈夫。私はいつも通りよ」
「そ、そうか……? ならいいんだが……」
「それに……私も佐伯さんのファンなの。綺麗だし、スタイル抜群でカッコイイし。みんなと一緒に、わぁあって声を上げたいくらい。また佐伯さんに会えるんだって思ったら、全身がウズウズしちゃう」
そう言いながらも、歩みはまるで変わらない。
滑るような足取りで、一歩、一歩。
透き通りそうなくらい白い柔肌と長く艶やかな漆黒のストレートヘアがとても綺麗な、妖精のようにほっそりとした美少女だ。眉毛にかかる長さで切り揃えられた前髪や、その下、長い睫に縁取られた黒目がちの瞳も相俟って、実際の年齢より幼く見える。申し訳程度にしか膨らんでいない乳房やプリッと丸く小振りな美尻、一筋の毛も生えていないアソコ――裸体を晒しているというのに女性らしさは乏しいが、それが逆に、純真無垢な印象を強めている。
硝子細工のように華奢な、雪の結晶のように儚げな――対戦相手の佐伯凜とは真逆の、荒事とは無縁そうな裸乙女だ。
会場全体では凜を応援する声が多いが、
「待ってました! 美柚子ちゃぁああんっ!」
「頑張れ、負けるな! 俺が着いてるからなっ!」
東の花道の周りには美柚子のファンが詰めかけている。数で負けているからか、ことさら大きな声を張り上げている。
「ありがとうございます。精一杯頑張りますね」
上品に微笑みながら小振りな美乳の前に手を挙げ、小さく振る裸美少女。
同学年で名勝負も多かったからふたりはライバルなのだと多くの者が思っているのだが、当の美柚子は違う。
初めて対戦したときから、憧れてしまった。
体格が違うから戦術を真似ることはできないが――いや、真似られないからこそか。
手合わせするたびに感動していた。
牝豹のようなポニーテール美少女の速さ、しなやかさ、力強さ。強靱なバネ、凄まじいほどの反射神経、そしてなにより、簡単には負けてくれない精神力。
凜は、美柚子が欲しいと思っている物をすべて兼ね備えているのだ。
しかも、美しい。
少しだけレズッ気のある美柚子は、だから凜と対峙するたびに胸が高鳴り、まだあどけないオマンコがジュクジュクと淫らに熱くなってしまう。
しかし、今日は――。
(……あら? 珍しい……佐伯さんが微笑んでる……)
土俵に登り、相手の顔を真正面に見た瞬間、美柚子の頭はサァッと冷えた。と同時、身体中の細胞が爪の先、髪の先まで一気に燃え上がる。
――私はいつも通りだけれど、今日の佐伯さんは違う。
(これは、ひょっとして……ううん、多分、そう……)
ようやく、だ。
学生の部活動としての最後の試合で、ようやく、ようやく――。
ずっとずっと憧れていた、どんなに頑張っても絶対に手の届かない遙か彼方の高みにいた、凛々しくしなやかで美しい戦女神のようなポニーテール美少女が、ようやく私と同じ土俵まで降りてきてくれた。
――違う。
美柚子が凜の土俵に、ようやく辿り着いたのだ。
(あの佐伯さんが、私と闘うことに、悦びを感じている……私、間に合ったのね。よかった……私はとうとう、佐伯さんのライバルになれたのね!)
土俵の中央に歩み寄り、それぞれの仕切り線のうしろに立つ。大きく形良い乳房と控え目な美乳を突き合わせ、柔らかな微笑みを交わす裸美少女たち。
美柚子のほうが少し背が低いから、細い顎をわずかに上げ、見上げる格好になる。
熱っぽく潤んだ円らな瞳でジッと見つめられ、凜の頬が微かに赤らむ。
「……なに笑ってんだ? いつものことながらムカつくぞ」
「佐伯さんこそ、なにをニヤニヤしてるんですか? なにか良いことあったのかしら?」
「ああ? 私は笑ってなんかないぞ? なに言ってんだお前?」
そう言いながら、凜は頬をトロトロに弛めてニヤニヤ、ニヤニヤ。
切れ長の瞳が涼しげな、精悍な顔立ちだから、スケベな笑みに見えなくもない。
(……笑顔を我慢するとこういう変な顔になってしまうのね。気をつけよう)
胸の内に呟いた美柚子は微笑んだまま俯き、一歩退がって仕切り線に手を着く。対する凜も、同じように手を着いて――。
土俵の真ン中、頭を突き合わせる格好で、四つん這いになるふたりの裸美少女たち。
――いや、ふたりではなく二匹だ。
闘牝は文字通り牝畜を闘わせる競技なのだから、学生闘牝においても土俵上では一匹二匹と数えなければならない。
臨戦態勢に入った二匹の裸美少女たちを見て、新たな歓声が沸く。