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闘牝
【スポーツ 官能小説】

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闘牝-1

 遠い潮騒のように低く静かに聞こえていた喧噪が、急に大きくなった。
 ――行司が土俵に登ったんだな。
 そんなことを思いながら凜が顔を上げると同時、控え室の扉が開けられ、
「時間です!」
 首だけ差し入れてきた女子係員が上擦った声で叫ぶ。
「っしゃぁあっ!」
 気合いを入れ、長いポニーテールを跳ね揺らしながら、すくっと立ち上がる凜。
 肩に羽織っていたガウンが落ち、飾り縄に緊縛された白い裸体が露わになる。
 細い肩、薄い背、標準よりやや大きくて形良い乳房と、その先端を彩るチョコレート色の乳首――括れたウエスト、桃の実のように丸い美尻、ムチムチとした太腿――身体中のどの部分も女性らしい柔らかな曲線で構成されているのに、緩く見えるところはひとつもない。流麗に引き締まった、まるで猫科の大型肉食獣のような、あるいは名工の手によって鍛え抜かれた日本刀のような、野性味溢れるしなやかな裸体だ。
 それでいて、決して熟れきってはいない。
 股間を彩る逆三角形の茂みも、色は黒々として艶やかだがその範囲は小さく、飾り縄に緊縛された裸体が発育途上であることを如実に物語っている。
 第百八回学生闘牝大会、決勝戦。
 相手は宿敵・蓬津県立比良坂学園の藤沢美柚子。
 これまでの戦績は、練習試合も含めると八勝十敗三分け。だから今日勝っても通算では勝ち越しにならないが、
「終わりよければすべて良し! 勝つぞッ!」
「おおっ!」
 拳を突き上げて猛る凜に同調し、可愛い声を発する介添人。
 普通、学生闘牝の介添人は男子学生が務めるのだが、凜が通っているのは私立黒縄女学園、つまり女子校だから、介添人も女子だ。白く細くなよやかな手で桶を抱え、
「行きましょう、先輩!」
 柔らかな頬を紅潮させて大きく肯く。
「ああ……」
 不敵な笑顔で肯き返し、ゆっくりと歩き出した凜は、
(……あれ? なんだコレ……)
 控え室から出た途端、妙に広く見える廊下に首を捻る。
 広いし、明るい。
 十メートルほど先にある備え付けの消火器の、側面に張られている注意書きの文字までもが読めてしまいそうだ。
 それに――。
(なんだ、コレ……なんで私、笑ってるんだ……?)
 引き締めているつもりの頬が、いつの間にか弛んでいた。大事な試合、学生時代における最後の試合なのだから笑っている場合ではない、と頭では思っているのに、ニヤニヤ笑いを止められない。
(畜生、なんだコレ? こんな顔を見られたら、アイツに何を言われるか……)
 花道に出る前には笑うのをやめよう、やめよう――そう思っていたのに、気づけばもう、花道の端に立っていた。
 折良く、
『ひがぁしぃぃい、藤沢美柚子ぉぉ、藤沢美柚子ぉぉお。にぃしぃぃぃぃ、佐伯りぃいん、佐伯りぃぃいん』
 呼び出しの声が朗々と響き、会場中が一段と湧く。
(クソッ! クソッ! ニヤけてる場合じゃねぇのに……ッ!)
 胸中でそんなことを叫びながら、凜は大歓声に応え、白い拳を突き上げて見せた。


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