叔母に触れるな-1
車の後部座席で、僕はぼんやりと芳恵のことを考えていた。彼女は今頃、また鴨居老人の舌や指の餌食になっているに違いない。クスリを盛られ、僕のように昏倒してしまった芳恵を、老人は思うがままにしているに違いない。
せめてもの慰みは、芳恵の話を聞く限り、老人が彼女をレイプすることなどできないことだ。それでも、老人の枯れ枝のような指が、カサカサに乾いた彼の舌が、芳恵の秘所を蹂躙することには変わりはない。
傍らの夫人を見れば、彼女はすっかり満たされたようで、終始微笑が絶えない。僕の手をしっかり握っているが、その手が僕の股間に降りてくることはなかった。それだけ彼女は満たされているのだろう。
「夫人?」
僕が呼びかければ、瑠璃子夫人はウキウキし、目を輝かせて振り向く。
「なぁに?」
声まで浮き立っていた。
「見せたいものがあるんだ。これ・・・」
僕はスマホを取り出した。事務所の風景と、芳恵の背中、その向こうに鴨居老人らしき人物が蠢く姿が見て取れる。
はじめは笑顔で映像を眺めていた瑠璃子夫人の表情が凍り付く。絶句し、口を半ば開けて数秒。しわがれ声が急に老けたものになった。
「こ、これ、って・・・。まさか、芳恵さんと?ウチのが?・・・やっぱり・・・」
深く頷き考え込んだ。
「僕の叔母さん、芳恵叔母さんが・・・。嫌がっているんだよ?・・・夫人の旦那さんにイヤラシイことをされるのが・・・」
僕は必死だ。とつとつとだが、僕はこの映像に映ってはいない、芳恵の心情を訴え続けた。
「でもね、拒むと、首にされちゃうでしょ?それを恐れて、芳恵叔母さん、我慢しているんだよ・・・」
芳恵の心情、本当のところは僕にはわからない。だが、僕の芳恵は、こう思っていて欲しいという、僕の願いもないまぜにして、今や一線超えた関係の夫人に、哀れを乞うように、切々と訴えた。
「わかった・・・わ」
瑠璃子夫人が静かに頷き、そう言った。
「ウチのを・・・貴方の叔母さんに悪戯するのを・・・止めさせればいいのね?」
そう呟く夫人の表情は、目が吊り上がり、怒りに顔を赤くしている。まるで鬼女、のような面持ちだった。
瑠璃子夫人は恐らく、僕の思い通りに鴨居老人の暴挙を、なにがしかの手を打って止めてくれるだろう。今度は手指を切り落とす?舌を?いやいや、そこまではしないだろうが、老女の怒りに歪んだ顔を思い出せば、それもありうるかもしれない。
事がまだ、首尾よく終わったわけではないが、僕は鴨居老人の暴挙を夫人に伝えるまではやり終えた。疲れがどっと押し寄せた気がし、怒りに任せて口を噤んだ夫人の横で、それ以上僕も口を開こうとは思わなかった。