黒い背広の男達-2
緒方が呆れた様に、
『御馳走になるな!』
『今日のオヤツて何だ、遠足か!』
と言う。捜査課のスピーカーは通話ボタンを押さないと相手に声が届かないので緒方の言葉は山田と櫻井には聞こえない。
周りの捜査官は笑い声が出ない様に口を押さえている。悠子も苦笑いしながら、
【山田君は、社交的で誰とでも仲良くなれる。】
【あの櫻井とも親しくしてる様だ。】
【これも才能だろう、事件の被疑者や関係者からも証言や情報を引き出すのに長けている。】
【ただ、お喋りが過ぎる場合が多いのが欠点だが。】
と思った。川地達は、笑いながら雑談をしている。その内、待つのに飽きた安岡が、
『いつまで待たせんだ‼』
『もう30分経ったぞ‼』
と部屋のメンバーにだろう、怒鳴っている。
『もう少し待って下さい。』
『いつもだと40分位で来ますので。』
とメンバーが申し訳無さそうに言う。安岡は、
『たく、遅えんだよ!』
と面白くなさそうだ。悠子は、先ほどから電話で誰かと話していたが終わると部下達に、
『組対課の知り合いの情報だと、川地は松方組の次期若頭らしい。』
『大物が出て来たわね。菅原組にとってこの詐欺組織は余程重要だって事だわ。』
『安岡と豊川は、川地の舎弟で菅原組の幹部らしい。それぞれ組を構えてるらしいわ。』
『安岡はかなりイケイケの武闘派で、豊川は菅原組傘下のフロント企業のまとめ役みたいだわ。』
と話す。緒方が、
『組員達に任せず、幹部クラスでこの件に当たっています。』
『この件は重要だと同時に詐欺組織を内密に菅原組の傘下に置きたいんじゃ無いでしょうか?』
と聞いて来る。悠子は頷き、
『私もそう思う。』
『引退させた山城の跡目が決まらない今、秘密裏に詐欺組織を手に入れ様としているんだわ。』
『組対課の知り合いによれば、山城組を中心に菅原に反感を抱く組が結構有るらしい。』
『松方組を半分に割っての抗争も有ると組対課は見ているらしいわ。』
『抗争に備えて詐欺組織を傘下に置きたいのよ。』
と言うと緒方達は頷く。その時櫻井が囁く、
『山田君、また別の連中が来たぞ!』
と言う山田が、
『うっ、むっ、喉が詰まる!』
と籠った様な声を出し櫻井が、
『ほら、お茶だ!』
と言っている。山田がゼイゼイ言いながら、
『御飯詰まって、死ぬかと思った。』
『命のお茶、ありがとうございます。』
と櫻井に礼を言う。緒方が、
『呑気に飯食ってたのか‼』
『しかも監視カメラも見ないで‼』
『協力者にアジトの訪問者、教えて貰うとは情け無い奴だ‼』
と怒りながら言い、悠子達は苦笑いする。山田が申し訳無さそうに、
『また、訪問者3名確認。映像送ります。』
と報告する。悠子達は、パソコンの前に集まる。1人は、30前後の身長190cmはある大柄なハーフぽい男だ。タトゥーが腕や首筋に見える、腰周りに鎖がやたらと付いている黒い服装をしている。
後の2人は、180cm位の身長で20代半ばに見え、金髪と髪を逆立てた髪型をしている。2人共やはり首筋や腕にタトゥーをしていて、ホスト見たいな服装だ。
アジトの部屋のドアを開けたメンバーと軽く挨拶し、ハーフの男を先頭に部屋に入っていく。悠子は捜査官2人にパソコンの画面のハーフの大男を差し、
『この男を尾行して頂戴。』
と指示する。捜査官達は、
『了解です。』
と返答すると直ちに捜査課を出てアジトの有るアパートに向かう。
捜査課の固定電話のスピーカーから、ドアを開ける音や開錠する音が聞こえた後、足音が明瞭に聞こえてくる。
『こんな所まで松方の次期若頭が、ご苦労な事だ。』
と今、入室した連中の1人が言う。安岡が、
『テメェ、カシラに舐めた口聞くな‼』
『オメエが仕切ってる小栗か?』
と怒鳴る。すると、
『小栗さんは、今関東には居ない。』
『小栗さんが居ない間の代行の城田だ。』
と言う。続けて、
『勝手来られちゃ、迷惑だ。』
『何の用だ?』
と城田が言う。相手が暴力団の幹部でも全く動じる様子が無く、堂々としている。安岡が、
『この野郎、誰に向かって言ってやがんだ‼』
と動く気配がする。川地がすぐに、
『良さねえか!』
と止めると続けて、
『俺達は、話し合いに来たんだ。』
と言うと城田が、
『小栗さんがあんた達にも、山城の跡目争っている川谷組や金子組にも言ってある筈だ。』
『山城の親分と同じ条件だと。6対4、あんたらの取り分は4で、組員は入れず組織は俺達でやっていく事が条件だと。』
と言うと安岡が、
『ふざけんな、それは俺達が決める。』
『俺達のシマでシノグんなら俺達に従え‼』
と言い豊川も、
『上がりを誤魔化していないとどうやって分かるんだ?』
『パソコンを見せろ、二台共な。』
と言うと城田は、
『別に菅原のシマだけでやっちゃいない。松方の跡目と言ってもまだ確定してねぇって聞いたぜ。』
『上がりは俺らを信用して貰うほか無いな。』
『パソコンは、誰にも見せる気はねえ。企業秘密ってやつだ。』
と言うと安岡が、
『知った風な口聞くな!』
『跡目は、ウチのオヤジで決まりだ。』
『7対3だ。3くれてやる!』
と言い豊川も、
『ウチの組員を入れるぞ!こいつは、譲れない条件だ。』
と畳み掛ける。城田は、
『なら、あんた達との話しは終わりだ。そんな条件飲む気は無い。』
と言う。