思いがけない出来事 1-2
紗理奈がシャワーを浴びて戻ってくると、
美奈子は布団をかぶって眠っているようだった。
(なんだ。やっぱり本当に寝てたのかしら。)
紗理奈は少しがっかりした気持ちになって、自分の布団の上に座った。
置いてあったはずのピンクローターが見当たらなかった。
(あれ?どっかに転がっちゃったのかなあ。)
掛布団を捲り、枕を持ち上げ、辺りを探したが見当たらない。
(あれ?ないなあ。どこに……。あ、もしかして……。)
紗理奈は隣に寝ている美奈子の掛布団にそっと耳を近づけた。
美奈子の布団の中からは、明らかにあのモーター音が聞こえる。
「美奈子。美奈子。」
紗理奈は小さな声で妹に声をかけた。
返事は全くない。
少し離れて見ると、掛布団はゆっくりと規則的に上下している。
(あれ?おかしいな。)
紗理奈は美奈子の掛布団をそっと持ち上げた。
掛布団の下には、全裸のまま、丸くなって眠っている美奈子の姿があった。
太腿のあたりに電源が入ったままのピンクローターが小刻みに震えている。
その太腿から足の付け根にかけてが天井の明かりに照らされ、
ヌルヌルになっているのがわかった。
(やだ、美奈子ったら。刺激が強すぎたのね、きっと。)
その時が美奈子にとっての、ある意味で本当のオナニーの最初だったのかもしれない。
翌日、紗理奈はそれとなく昨夜の行為の名前やその目的、
更には注意するべきことや功罪などについて、
当時はまだ小学生低学年だった美奈子に教えたのだ。
しかし、最初のオナニーで、なんとなくいくことを覚えてしまった美奈子は、
毎日のように、いや、時には日に数度、オナニーをするようになった。
最初のうちは割れ目に沿って指を動かす程度だったが、
紗理奈の言っていたクリトリスを弄っているうちに、
割れ目以上の快感が得られることを実感した美奈子は、
次には、少しずつ開き始めていた割れ目への侵入へチャレンジしたのだ。
最初はもちろん人差し指だった。
それも恐る恐る、第1関節まで入れたところで怖くなってやめた。
しかし次の日、難なく人差し指をクリアした美奈子は、
人差し指と中指、2本の指を揃えて入れることを覚えたのだ。
それからは早かった。
鉛筆、時にはブラシからスプレーの小瓶など、ありとあらゆるものを入れてみた。
両親の寝室に忍び込み、もう使わなくなっただろう、
使い古しのディルドやバイブを持ち出したこともある。
処女膜というものの存在や意味についても紗理奈はそれとなく美奈子に教えたのだが、
美奈子には特にそれを破ったという自覚もないままに、色々なものを挿入していた。
学校には美奈子がわくわくするようないろいろなものがあった。
クラスのみんなで使うマジック。
学校に置きっぱなしにしているソプラノリコーダー。
理科の実験で使う試験管。
休み時間にリコーダーでオナニーをしていて、
クラスの友達に声を聴かれたこともあった。
「美奈子ちゃん。トイレで変な声、出してた。」
うわさは広がり、やがて美奈子の周りから友達がいなくなった。
思えばこれがいじめの始まりだったかもしれない。
しかし美奈子には特に友達の必要性を感じていなかった。
それよりも、誕生日のプレゼントに買ってもらった電動歯磨きや、
父親のシェービングクリームの缶、
蔵庫の野菜室にあるナスやキュウリの方が、友達よりも大切な存在だった。
そんなことを日々繰り返すうちに、美奈子の口数は次第に減っていった。
美奈子の行動に変化を感じ取ったのも紗理奈だった。
紗理奈の使っているピンクローターが時々行方不明になるのだ。
入れてあるはずの引き出しをいくら探して見つからない。
しかし翌日にはちゃんと引き出しの中に入っている。
そんなことが数回続いたあと、数日ぶりに紗理奈が見つけたローターは、
モーターが焼き切れていたのだ。
(つけっぱなしだった?ううん、そんなことはない。これってやっぱり。。。)
紗理奈は父親の征爾に相談した。
「そうか。美奈子がなあ。いや、恐らく間違いないだろう。
これ以上エスカレートしないうちに、きちんと教えておいた方がいいだろう。
道具もちゃんとしたものを与えた方がいい。
変なものを入れて、怪我でもしたら大変だからな。」
実は征爾も、洗面所に置いてあるシェービングクリームの缶の、
不思議な変化に気づいていたのだ。
置場所が変わっていたり、缶にクリームとは別のぬめり気を感じたり。
その滑りが何であるのか。
妻の麗子がそんなものをいじるとは考えにくい。
長女の紗理奈にはきちんとしたものを与えていたし、定期的に確認もしていた。
それに、紗理奈が新しい道具を初めて使う時には、
いつも征爾が、紗理奈の身体に合っているかを、
紗理奈と実際に使ってみて確かめていたのだ。
だから、紗理奈の目から見て、美奈子がどうやらこっそりと、
オナニーをしているのではないかと知った征爾が一番心配したのは、
回数のことよりも、中に入れる物のことだったのだ。
小学校低学年でオナニーと、それによる喜びを知ってしまった美奈子のことを、
幸い、父親は少しも否定せず、受け入れてくれたのだ。
ただ、いじめによって始まってしまった心の病の治療には、
思いの外、時間と苦労が必要となった。
美奈子を精神的に徹底的に追い詰め、
そこから美奈子の意識改善を図っていくという逆療法で、
心の闇から救い出してくれた父親。
美奈子の心のままにと、時には身体を絡ませ愛撫し合いながら見守ってくれた姉。
長い年月と家族の協力によって、美奈子は心の自由を取り戻したのだった。