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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、奮う肉刀-7

「どうした、黙っていちゃあ埒(らち)があかないぜ」

 力蔵が自分の二の腕をパンッと叩く。用人は努めて平静を装いながら閉じた扇子で自分の袴を叩きながら言った。

「力蔵殿、そこもとの提案は実にもっともである。もっともではあるが今回は見送らせて頂きたい。貴重なご意見は今後のために後で別室にてあらためて聞き申す。あらためてな……」

 意味ありげな目の色で力蔵を見つめた。

「……まあ、仕方がねえな。ここはおめえの顔を立てておこう。これは貸しだぜ。覚えておきな」

 ようやく力蔵は引き下がったが、やりとりを見ていた二倫坊が小さく鼻でせせら笑った。

「力蔵の野郎め、後で用人から袖の下(内密に贈られる金銭)をたんまりとふんだくるつもりだぜ」

「袖の下だと?」

 艶之進が聞くと、二倫坊が口元をゆがめて言った。

「色々と難癖をつけておいて、相手が金の匂いをさせたところで、いったん身を引く。後で……、そうさな、一両ばかりは力蔵の懐に入るだろうよ。けっ、いけすかねえ」

 そうと聞いて、艶之進はますます力蔵に敵愾心を抱いた。が、二倫坊が笑いながら言った。

「まあ、ああいうやつらのよく使う手だが、ここの用人も、まんまと嵌(は)まりやがった。しかたがねえ、一両くらいくれてやろうぜ。おれたちが頑張って勝ち抜き、あいつを打ち負かせば済むこった」

「ふむむ、これは何としても負けられぬな」

 そうして、いよいよくじ引きが始まった。朱塗りの盆に沢山の捩られた紙縒(こより)が載っており、艶之進の番が回ってきて慎重に選んだ末、一つを取り上げた。開いてみると、〔美沙〕と書かれてあった。腰元の名前らしい。二倫坊が横から手元を覗き込む。

「ほう、美沙か。よさそうな名じゃねえか」

「おぬしのはどうじゃ? ……ふむ、早喜? さき……か」

「早く喜ぶ。こりゃあいい名だ。魔羅くらべの相方にゃあ、うってつけだぜ」

 満面の笑みを浮かべながら二倫坊が今度は小夜之丞の引いたくじに目をやった。

「どれどれ……、満? ……まん?」

 艶之進も覗き込む。

「変わった名じゃのう。……さぞかし豊満な女であろうの」

「ちげえねえ。おい、小夜之丞、押し潰されんなよ、おめえ」

 二倫坊がゲラゲラ笑いながら小夜之丞の薄い背中を盛んに叩いた。

 皆がくじを引き終えると、四十人の腰元たちが座敷に入って来た。すでに真っ裸であり、足を運ぶたびにそれぞれの乳房が微妙に揺れて、何ともいい眺めだった。

「しかし、これだけの人数、よく揃えられたものじゃのう」

 艶之進が感心すると二倫坊が訳知り顔で笑った。

「下屋敷だけではまかないきれず、上屋敷からも連れてきたに違えねえぜ」

 腰元たちが男どもの前に居並ぶと、用人が声を張り上げた。

「おのおのがた、引いたくじを広げて高く掲げるのじゃ。腰元たちによく見えるようにの」

 用人の言葉に従い、銘々、腰元の名が書かれたくじを頭上に掲げると、彼女らはそれぞれ自分の名を見つけようと一斉に動いた。四十体もの裸身が交錯する様は淫らな壮観さに満ちており、艶之進は思わず生つばを飲み込んだ。
 やがて、腰元たちはそれぞれ自分の相方を見つけ、腕を取っていった。

「美沙でございます。よろしくお願い申し上げます」

 艶之進に寄り添ったのは細面の美人だった。身体つきもほっそりとしていたが、乳房はほどよく盛り上がり、腰もしっかり張っており、艶之進が思い切り突き入れても大丈夫そうだった。
 二倫坊はと見ると、ぱっちりとした瞳の愛嬌ある顔立ちの若々しい娘をそばにして、盛んににやついていた。
 さて、小夜之丞の相手の満とやらはと目を向けると、何と、名は体を現すという言葉通りの女であった。小夜之丞より頭一つ背が高く、豊満な身体は細身の相方の二倍の巾。乳房など鏡餅さながらで、尻は臼のよう。あの身体でのしかかられては小夜之丞が窒息してしまうのではないかと危ぶまれた。

「おい、小夜之丞、大丈夫か? 巴御前をさらに太らせたような女だぜ」

 二倫坊が耳元で囁くと、小夜之丞は軽く微笑んだ。

「大丈夫も何も、あたしの大好きな体型ですよ。あの、たっぷりとした肉の上に乗ってごらんなさいな。柔らかな脂(あぶら)のおかげで、さながら、遠浅の渚を漂っているかのようでしょう」

「ふーん、そんなもんかねえ。……ま、好きずきだ。大女の上で、せいぜい泳ぎ回るんだな。溺れたって助けにゃ行かねえぜ」

「ご心配有り難うございます」

 小夜之丞は遊女のような嫣然とした笑みを返した。
 さて、それぞれの相方が決まると、四十組の男女が割り当てられた布団へと移動した。艶之進と美沙は、一列目の真ん中あたりだった。奇しくも右隣は二倫坊で、一組置いた左隣が小夜之丞だった。そして、運の悪いことに、二列目の同じ位置に力蔵が来てしまった。すでに丸裸で毛深い尻を布団につけている。

「おう、青侍。男のくせによがり声を上げて、おれ様の邪魔をするんじゃねえぞ」

 力蔵が彫り物で埋め尽くされた背中を向けたまま肩越しにがんを飛ばしてきた。

「ふん、おぬしこそ、そのゴチャゴチャした背中をどこかへ仕舞え。目障り極まりない」

「何だと!」

 つかみ合いになりそうになる二人を見て、慌てて若侍が参加者の間を飛び跳ねながら駆け寄る。

「おやめ下され。おやめ下され」

 二人の間に割って入ると、

「うるせえっ!」

 力蔵の払いのけた腕がモロに若侍の鳩尾(みぞおち)に当たり、彼は苦痛に顔を歪めてその場にうずくまった。

「何をしておるか!」

 今度は用人が閉じた扇子を握りしめながら足音荒く近づいて来た。

「大人しくせい! 痴(し)れ者どもが……」

「何だとぅ?」


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