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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、奮う肉刀-6

「合戦だと? へっ、仰々しい野郎だぜ」

 坊主頭は手にした茶碗を手にすると、ぬるい茶を一気に飲み干した。隣ではやさ男が茶碗を両手で包むようにして、ゆっくりと味わっている。茶を飲み込むたびに白いのどがコクリと動く。切れ長の目をうっすらと閉じ、なで肩をさらに落としてフーッと小さく溜息をつく様が何やら色っぽく、こいつが女なら、さぞかし言い寄る男がたくさんいることだろうと艶之進は思った。

 やがて、床の間の前に用人が進み出て、検分の結果を書き記した紙を見ながら、声高に告げ始めた。

「おっ、いよいよか」

 坊主頭があぐらをかいたまま身を乗り出した。
 用人は次々と合格者の名を読み上げていったが、その中にはもちろん艶之進の名もあった。読まれた際に顎を撫で上げて低く笑うと、坊主頭が体を寄せた。

「ほう、あんたの名は、つやのしん、っていうのか。風変わりな名前だなあ。どういう字を書く?」

「艶(つや)やかの艶に之、進」

「艶(あで)やかの……あでのしん、と読んだほうが印象深いがなあ」

「馬鹿を申せ」

 そして、「二倫坊」と呼び上げられると、坊主頭がゆっくりとうなずいた。

「まあ、当然だな……」

 さらに名前の読み上げは続き、「白石小夜之丞」という名が聞こえると、やさ男が小さく溜息をつき、胸を撫で下ろしていた。
 結局、選に漏れたのは六十名中二十人で、次の座敷に四十本の魔羅が移ることになった。

「以上が合格した者たちだが、検分のついでに伝えておこう」用人が指で紙をなぞりながら言った。「魔羅の長さ第一の者、坂本艶之進。……長さ六寸!」

「おおーーっ」

 皆のどよめきが湧き起こった。艶之進は小鼻をむずむずさせ、笑い出したいのを何とかこらえていた。

「次に、魔羅の太さ第一の者、青背の力蔵。……魔羅周り五寸三分!」

 魔羅周りで言われてもよくは分からなかったが、「魔羅巾二寸(約6p)!」とあらためて言われて皆は驚きの声を上げた。力蔵は肩を揺すって声もなく笑っていたが、満座の中で立ち上がると、いまだに露出したままの怒張をグッとせり出した。

「このおれ様が一番になり五十両をせしめたら、その大半をつぎ込んで、この太魔羅全体に豪華な彫り物を入れてやるぜ。その時は両国広小路の見世物小屋で御開帳するからな。一人八文でいいぜ。みんな、拝みに来るんだぜ」

 屹立した魔羅をブルンと振って高笑いをした。

「ぬ、ぬぬ。やはり、あやつは刀の錆にせんことには、どうにも治まらぬ」

 艶之進が気色ばむ。

「魔羅全体に彫り物だと?」

 自分の物にすでに小さく「火」と入れている二倫坊が目をむく。
 すると、白石小夜之丞がポツリとつぶやいた。

「大丈夫……。あの方の優勝はありますまい」

「む? それでは誰が優勝すると思うのじゃ?」

 小夜之丞は頬に軽く指を添えて首をかしげ、艶之進を見た。

「……それは、あなたかも知れませんし、こちらの二倫坊殿かも知れませんし……、ともかく、あの品のない親分さんでないことは確かですよ」

「おぬしかも知れないしの」

「いえいえ、あたしなど、とてもとても……」

 すると、広間の奥の襖が大きく開け放たれた。向こうに見えるのは、ずらりと夜具を敷き延べた四十畳ほどの座敷であった。

「ほう、これだけ布団が並ぶと見事な眺めだぜ」

 二倫坊が光る頭を撫でながら目を細めた。艶之進も息を飲んだが、少し眉を曇らせた。

「しかし、衝立(ついたて)がないのう。あれでは隣の痴態が丸見えじゃ」

 二倫坊がせせら笑う。

「べつに見えたっていいじゃねえか、あで之進」

「つや之進じゃ」

「おめえ、他人が気になって魔羅がおっ立たねえか」

「いや、べつに、そのようなことはないが……」

 その時、若侍が遠くで間延びした声を張り上げた。

「皆様ぁ、くじ引きをいたしますので、どうぞこちらに、おいでくださいませぇー」

 くじ引きとは何事かと皆にまじって隣の座敷に入って行くと、用人がもったいぶった口調で説明を始めた。それによると、皆一斉に腰元と一対一の交わりを結ぶのだが、彼女らにも感じ方の個人差がある。感度のよい腰元に当たった者は好運だが、そうでもない女に挑む男は不運である。そこで、不公平にならぬよう、くじ引きで交わる腰元を決めるということらしい。

「ちょっと待ちな!」

 力蔵が声を上げた。やけに意見の多い男である。

「感じる女を選び出す眼力も男の力の一つだ。くじなんかじゃあなく、自由に選ばせてもらいてえな」

 言われて用人は少し困った顔になった。的を射た発言だったようで座敷のあちこちで「そうだ、そうだ」との声も上がった。しばし用人は腕を組んで考えていたが、

「せっかくの進言なれど、それは次回の魔羅くらべにて行うよう検討いたす。すでに腰元たちの名を書いたくじも作り終えておる。力蔵、ここはひとつ、我等の決めたやり方に従って下され」

 少し頼み込むような口調になった。しかし力蔵は引き下がらず、

「……腰元の名を書くんじゃなくって、一から順に番号を書いたくじにしなよ。一番くじを引き当てたやつから、これはという女を選んでいく。そんなくじ引きなら、うなずけるってもんだ」

「……もっともな言い分であるが、くじを作り直しておる暇もない」

「いいや、是非とも作り直してもらおうじゃねえか」

 用人は鷹揚な表情を保ってはいたが、うっすらとひたいに汗を滲ませ始めた。

『もうじき、奥様の綾乃の方様がお見えになる。ここで手間取っていては、後でどのようなお叱りを被るか知れたものではない。特に奥様付きの老女(腰元の長)の嵯峨野は何事も手順よく運ばねば、すぐに青筋を立てて怒り出すからのう…』


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