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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、奮う肉刀-8

 力蔵が下から睨みつけると、用人は腰をかがめた。

「力蔵どの、騒ぎを起こされては困る。少しは大人しくして下され」なだめるように言うと、今度は艶之進に振り向き、強い口調で「おぬしもじゃ。ここは腕っ節の強さを競う場ではない。騒ぎ立てると失格にいたすぞ」

 扇子を喉元にグイッと近づけた。その時、二倫坊が横合いから声をかけた。

「そうだそうだ、ここは腕っ節自慢の場じゃあねえ。魔羅っ節自慢の場だぜ」

 周りから笑いが起こると思ったが、クスッと失笑を漏らしたのは小夜之丞だけで、その場に白けた空気が流れた。

「あ……、いや、何だ……」二倫坊は光る頭を盛んに撫で回した。「さっさと、まぐわい(性交)をおっぱじめようぜ。おりゃあもう、我慢がならねえ」

 その時である。ドドンッと太鼓が打ち鳴らされ、続いて老女の声が高らかに響き渡った。

「奥様の、おなーーりーーー」

 満座注目の中、三方を捧げ持った年かさの腰元二名を従え、綾乃が姿を現した。きらびやかな打掛けを身に纏い、その合わせ目から豪奢な帯が覗いていた。髪は笄髷(こうがいわげ)に結い上げ、後頭部の髱(たぼ)が優雅にせり出し、髪にさした櫛や簪が高価な輝きを放っていた。色白の顔(かんばせ)は思った以上に若々しく、とても三十路を超えているとは思えなかった。綺麗に二重になっている目元は上品な優しさを醸し出しており、キュッと引き締まった口元が旗本の正妻の威厳を保っていた。どう見ても自ら魔羅くらべを執り行う女性とは見えなかった。だが、一人先んじて男根を露出させている力蔵を目ざとく見つけると、綾乃の双眸に妖しい光が微かに宿ったのを艶之進は見逃さなかった。が、老女が入って来て傍に付き従うと、彼女はツイッと視線を外して歩を進めた。

『確かに、すこぶる付きの美女ではあるが、何やら得体の知れない感じがするのう』

 艶之進は少し顎を引いて旗本の正妻を見送った。
 綾乃は座敷の舞台のように一段高くなったところ、そこへ置かれた大きな座布団に座ると、脇息にゆったりともたれかかった。右に二人の腰元が三方を前に置き並んで座る。左には老女が侍り、能面のごとき無表情をこちらに向けていた。そこへ用人が腰をかがめて近寄り、老女のそばに膝行すると、小声で何事かを告げた。老女は深くうなずくと、首を伸ばして一声発した。

「奥様より、お言葉を頂戴致します。皆の者、膝を正しなされ!」

 その声の持つ威厳は用人の比ではなく、さしもの力蔵や二倫坊もきちんと膝をそろえてかしこまった。

「ふふ、ふふふふ……」

 綾乃の口から漏れたのは、その容貌とは裏腹に気だるい笑い声だった。その声は女にしては幾分太く、黒曜石を彷彿とさせる底深い艶を含んでいた。

「これ、嵯峨野、そのようにしゃちほこ張るでない。ここは何の場じゃ? 魔羅くらべの場じゃぞ。もそっと肩の力を抜け……」

 言われて老女は恐縮した。綾乃はやれやれという顔をしていたが、参加者をひととおり見渡すと、脇息に肘を預けたまま一つ息を吸い込み、歌うように声を発した。

「わらわの陰門咲き匂う。真の床師の猛る魔羅、女を溶かす秘め事の、巧みな技を渇望す……。陰陽和合の益荒男(ますらお)よ、ただひたすらに勝ち抜きて、我が玉門にその楔(くさび)、見事打ち立て桃源郷、夢幻の郷(さと)へと誘うがよい……」

 皆はあっけにとられて奥様を眺めていた。婉然たる綾乃の声が続いた。

「ふふふ……、ようするに、わらわは早う選りすぐりの男と交わりたいのじゃ。江戸一番の床師とな……。決勝で勝ちを得た者には金五十両を与えるが、その他に、わらわと交合する栄誉が与えられる。そして、逝き狂いするほどわらわを昇天させ屈服させたあかつきには、松平家の奥向きの閨房指南役に取り立ててしんぜようぞ。さすれば高禄はもちろんのこと、腰元すべてを抱き放題じゃ」

「おおーー!」

 皆がどよめき、期待に鼻腔を膨らませた。綾乃は手の甲を口元に当てて笑いながら、

「皆の逸(はや)る気持ち、よーく分かるぞ。……しかし、かように大勢がひしめき合う中での交情は気が散ることであろう。そこで、秘薬を用意した。これ、ここへ……」

 綾乃が右に控えし腰元たちに目配せをすると、二人は立ち上がり、それぞれの三方を綾乃の膝元へと静かに置いた。遠目ではよく見えなかったが、三方の上に何やら沢山の丸薬が載っているようだった。
 綾乃は右の三方から小梅ほどの大きさの赤黒い丸薬を一つ摘み上げると、それを唇に押し当て、舌先で弄び、ゆっくりと飲み込んだ。雪のように白い喉元がコクリと動く様が艶めかしく、静寂の中、男たちの鼻息だけがあちこちで微かに聞こえた。

「これは喜悦丸と申して女の身体を燃え上がらせる秘薬じゃ。これで腰元たちの気を高める」

 綾乃は次に左の三方から深緑色の丸薬を摘み上げた。

「これは意馬心丹と申して一物を樫の木顔負けに硬くする。これでそのほうらの魔羅はいつも以上に奮い立つはずじゃ。……さあ、これを飲んで思う存分魔羅くらべに励むがよい」

 年かさの腰元二人がそれぞれ三方を捧げ持ち、皆に秘薬を配り始めた。艶之進が意馬心丹を口にしてみると、たちまち漢方薬の強烈な臭いと苦い味が口中に満ち、急激に滲み出た唾液とともに呑み下すと、奇妙に淫猥な香りが喉から鼻腔にかけて立ちのぼった。美沙はと見ると、彼女も喜悦丸を呑み込んで目を白黒させていた。
 笑いを含んだ綾乃の声が座敷に流れる。

「秘薬の効き目は瞬く間に現れるはずじゃ。もう、わらわなど、陰門がむず痒くなってきたぞえ」

 綾乃のはしたない言葉に老女が顔をしかめたが、女あるじは半身をやや持ち上げ、用人に声をかけた。

「そろそろ始めよ。嵯峨野が目を剥くような淫蕩の宴をな……」

それを受けて用人が咳払いをし、舞台の袖で声を高めた。


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