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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、唸る肉刀-10

「あの力蔵が何かやらかしたのかい?」

 凜は力蔵が下屋敷へ押し入った顛末を語って聞かせた。

「力蔵のやつめ、素直に引っ込むとは思っていなかったが、やっぱりな……」

「その力蔵の手下を盗っ人に仕立てました」

 二倫坊は腹を抱えて笑った。

「しかし凜よ、おめえはてえしたもんだ。薙刀振り回して手八丁だが、口八丁でもあったんだなあ」

 二倫坊は「こりゃあ、あで之進と夫婦になったあかつきにゃ、亭主を尻に敷く女房になるぜ」と思ったが言わないでおくことにした。

 そのあと、世間話をひとくさり交わしていたが、暮れ六つの鐘の音を聞いて、艶之進は辞することにした。

「そういうことで二倫坊、分け前は確かに渡したぞ」

「ああ、あで之進、ありがとうよ。おかげで暮らし向きがだいぶ楽になるぜ」

 訪春院も二倫坊の隣で白い尼頭巾で包まれた頭を深々と下げた。

「あで之進さん凜さん、どうもありがとうございます」

 艶之進は片手を上げて背を向けた。が、また振り返って小声で言った。

「二倫坊、前から何度も言っておるが、拙者の名は、あで之進ではない。つや之進じゃ」

「艶(つや)やかよりは艶(あで)やかのほうがいいって前にも言っただろう? 見ろや、今日の富士は久々によく見えて艶(あで)やかな眺めじゃあねえか」

 二倫坊の指さす方角に目を転ずると、降灰のおさまった夕空を背景に、富士の姿が遙かに見えた。切ないまでの茜色が広がり、それはじつに艶(あで)やかな眺めであった。

(お わ り)


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