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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、奮う肉刀-5

「ほう、ありゃあ真珠だな」

 坊主頭がつぶやく。

「真珠?」

「ああ、やつは真珠を埋め込んでやがるのさ。雁首の後ろにぐるりとな」

 艶之進は目をまたたかせた。魔羅に真珠を埋め込む男がいると伝え聞いたことはあるが、実物を目にするのは初めてだった。しかも、あんなにたくさんの真珠を……。
 みんなの視線を感じたのか、力蔵は突き出した腰をより一層前にせり出し、魔羅に力を込めて、これ見よがしに亀頭をムクッ、ムクッとひくつかせた。

「うええぇっ」

 艶之進と坊主頭が同時に目をそむけると、力蔵は腹を抱えて笑いだし、腰元はなかなか糸で測れず往生していた。

 やがて、全員の検分が終わり、いったん皆が銘々の座布団に戻って下帯をつけると、畳に並べられた糸の計測が端から順に始まった。広間の隅で若侍の間延びした声が上がる。

「糸を測り終えるまで少々お待ち願います。それまでどうぞ、おくつろぎ下され。……こちらには煙草盆と茶菓子など用意しておりまする。ご遠慮なさらずに……」

「おい、向こうで一服しねえか?」

 坊主頭に誘われ、艶之進が袴を直しながら歩を進めると、広間の中央で力蔵がドッカリとあぐらをかいて周囲を睥睨していた。下半身は裸のままで、何と、いまだに魔羅をおっ立てていた。

「親分さん、たいそう元気な息子さんでございますね」

 坊主頭が皮肉混じりに声をかけると、力蔵は弾けるような高笑いをした。

「おれのどら息子は一度怒り出すとなかなか治まることを知らねえ。富士のお山の風穴(ふうけつ)からでっかい氷を持ってきな。そいつでもって冷やさねえことには、ちっとやそっとじゃ、おねんねするもんじゃねえぜ」

 笑いながら自分の野太い魔羅を二、三度指で弾いて見せた。

『ぬぬ、こやつめ、黙って聞いておれば……』

 艶之進は刀の柄に手を伸ばした。が、空をつかんだ。

『無念。刀は屋敷に上がる前に外すようにいわれ、預けてしまっていた。得物さえあれば、こんなごろつき野郎など、袈裟懸けに斬り倒してやったものを……』

 ぎりぎりと歯噛みする艶之進だったが、坊主頭が肘で小突いた。

「上物の国分(刻み煙草)を持って来たんだ。あんたも試さねえか?」

 艶之進を煙草盆の前へと誘った。

「さ、一服いきな」

 坊主頭は手早く煙管を吸い付けると、そのまま艶之進に手渡した。憮然としたまま吸い口をくわえる艶之進だったが、その煙草の芳ばしい香りにたちまち陶然となった。

「いや、これは、相当な上物じゃな……。このように美味い煙草は初めてじゃ。よくこんな物が手に入ったのう」

「ふふ……。訪春院からの頂き物でな……」

「ほうしゅん?」

「訪春院。おれの住んでる長屋の近くに尼寺があって、そこにいる尼僧さ。そいつとは乳繰り合う仲でな……」

「! おぬし、尼僧どのと交接しておるのか? なんと罰当たりな」

「いや、訪春院の煩悩の処理をしてやってるだけだぜ。やった次の日には訪春院のやつ、じつにさっぱりした顔で、読経の声も涼やかに……」

「さっきおぬしが言った『毎晩のように相手にしている絶品の締め付け開(ぼぼ)』とは、その尼僧のことか?」

「そうだ。だがこれは他言無用だぜ」

「坊主と尼僧がまぐわう(性交する)とは、世も末じゃのう……」

「坊主といっても、おれは寺を追われた生臭坊主でな、普段は寺子屋で餓鬼ども相手に読み書きそろばんを教えているんだ」

「ふーん。……ところで、訪春院とやらの年齢は?」

「四十路を越えたところかなあ……」

「げっ、大年増じゃないか。よくそんなのと……」

「いやあ、これがなかなかでな。顔こそ小皺があるが、乳や尻はまだ張りがある。とにかく開(ぼぼ)の具合が滅法界いいんだ。……この下屋敷の奥様は三十路を越えたところだそうだが、奥様も練れた女であることは間違いねえ」

「練れた女?」

「若い娘っこにはない、熟して味のいい開(ぼぼ)を持ってるってことだよ。……おい、そろそろ国分を返してくんな」

 艶之進が煙管を返すと、坊主頭は薫煙を深々と吸い込み、惜しむようにゆっくりと吐き出した。そこへ、一人が声をかけてきた。

「ちょいとごめんよ。あたしにも火を分けておくれ」

 女物のような細身の煙管が差し出される。先程見かけた色の白い役者風のやさ男だった。彼は腰をかがめて煙管の雁首同士を近づけると、巧みに吸い付けて火を移した。たちまち彼の煙管からも芳香が漂い始める。坊主頭が身を乗り出した。

「ほう、おめえの刻み(煙草)も結構な上物じゃねえか。やっぱり国分かい?」

 やさ男は煙草盆の近くに端然と正座した。

「ええ、国分は国分ですが、あたしのは少々練り香を忍ばせてあります」

「どうりで滅法いい匂いがすると思ったぜ。……ところでおめえも今日の参加者かい?」

「ええ……、一応は……」

 やさ男は細面の頬を少し赤らめながら頷いた。

「どうだった? 魔羅の立ち具合は」

 坊主頭の問いに、やさ男はさらに顔を赤くして照れ笑いを浮かべた。

「いやあ、あたしの物は合否の境目、四寸三分に届くかどうか微妙なところです。とてもとても、あなたがたには敵いませんよ」

「おっ、おれたちの物を見てたのかい?」

「ええ、一番端っこから拝見させて頂きました。お二人とも、たいそう立派な一物をお持ちのようで、羨ましいかぎりです」

「いや、魔羅くらべとは、たんに一物の大きさを張り合うだけではないからの」艶之進は自ら茶を淹れると、茶碗を坊主頭とやさ男に手渡しながら言った。「魔羅の検分は、ほんの小手調べ。これからが本当の戦いじゃ。腰元相手に盛んに汗をかくことであろう。さあ、茶で喉を潤し、合戦に備えようではないか」


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