駐車場-2
咲良は、眼頭を押さえた後目薬を差す。
【少し休憩するか。】
と腰を上げた時、上着のスマホが振動する。取り出し画面を見ると〈桜井太郎〉と出ている。周りを見渡し誰もいない事を確認してから掛け直した。ワンコールで桜井は出ると、
『何階に居るんだ?』
と聞いてくる。咲良は、
『7階だけど、そこの駐車場に居て!』
『もうすぐ仕事終わるから。』
と答える。桜井は、無言で電話を切った。咲良は、
【待つのに飽きたのかな?】
【急ごう!】
と思い、仕事を再開した。咲良が仕事を始めて、5分もしない内にスマホが振動する。画面を見ると〈桜井太郎〉と表示されている。
【何なの、落ち着きの無い人ね!】
と呆れながら、周りを確認し掛け直す。桜井はワンコールで出ると、
『今、7階のエレベーター入口の近くの自販機コーナーに居る。』
と言う。咲良は、仰天して
『えっ、この階にいるの!』
『どうして、駐車場に居ないのよ!』
『エレベーターと廊下には、監視カメラが付いていると言ったでしょ!』
と叫んでしまう。桜井が、
『声が大きいぞ、チーフ!』
と笑う。咲良は、口元を慌てて押さえ
『そこにいなさい‼』
と怒って言うと電話を切る。咲良は、
【かなり、困った事態になったわ。】
【部外者が、捜査官の付き添い無しに捜査課のあるフロアに入る事は、許されない。】
【エレベーターの監視カメラで気付いた職員が、不審人物扱いして、既に向かっているかも。】
と絶望感に苛まれていた。咲良は、速歩きで桜井が言っていたエレベーター入口近くの自販機コーナーに行くと、床を掃除している作業員の姿しか見えない。咲良が、周りを見廻していると
『俺だよ、チーフ!』
と声がする。声の方へ向くと、帽子を取った作業員が近づく。桜井だった、掃除業者のツナギを着ている。咲良は、ビックリして
『どうしたの、その格好!』
と声が大きくなる。桜井は、自分の唇に指を当て静かにのゼスチャーをしながら
『今、清掃業者が来ている。』
『ちょっとの時間借りる。』
と言う。