五分間の戦い-1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー
天井に並ぶ剥き出しの鉄筋に、チェーンブロックという手動式のクレーンが鎖で吊られている。
そのチェーンブロックの吊鍵には青いゴムチューブが束になって巻き付けられ、その下には短い鎖で連結された黒革の手枷が結ばれていた。
「なんなのよ貴方達ッ!?なんのつもりでこんな事…ッ!!」
手枷を嵌められたポニーテールの彼女は、グレーのパンツスーツを乱れもなく着ている。
コンクリートの床に倒された鉄柵の上に、脚を肩幅より広くして立たされた彼女は、黒革の足枷を足首に着けられて、足元の鉄柵にゴムチューブで繋がれていた。
偶然の再会が引き起こした悲劇は、一人の女性を哀れな姿へと変えてしまった。
逆Yの字の姿勢で拘束されている女性の首には社員証が下げられ、そこには新庄由芽の名前があった。
降り掛かる火の粉くらい、自分一人で振り払える……それなりに自信があった空手の技は、初手から封じられている。
いや、多勢に無勢の奇襲に、最初から全く歯が立たなかった。
今となっては威圧的な態度と怒声を吐きつける以外に手立てはなく、周りをうろつく男達を選別せずに怒鳴りつけるだけだ。
『なんのつもりだって?男が女を拉致ったんだから、ヤル事は〈お楽しみ〉しか無えだろうが』
「なにが『お楽しみ』よ!こんな事してただで済むと思って…!?」
怒鳴り声を微笑みで受ける男達の全員が、頭からストッキングを被り出した。
もう顔を知られているのだから、今さら無意味……その考えは間違っていた。
「なッ!?なに撮ってんの?やめてよッ!コッチ向けないでよ!!」
顔の識別が不能な二人がカメラを構えた。
それは何時もの役割を務める伊藤と吉田である。
『さあて、もう解ったよなあ?俺達が顔を隠したってコトは、個人で所有する動画の撮影じゃないってコトだ。名前もオマンコも包み隠さず曝け出したDVDを、いろんな奴等に売りまくるって訳さ。なんなら住所も曝してやってもいいんだぜぇ?』
「ッ!?」
鈴木は口角の上がった唇を出し、舌を伸ばして舐めるように動かしてみせた。
その様は紛れもなく変態そのもので、由芽は身の毛がよだつほどの嫌悪感に襲われた。
『いま「なんで私が?」って思ってるだろ?昨日の月曜日、通勤途中で痴漢を捕まえただろ。アイツはこの二人の仲間だったんだよぉ』
「ッ!!??」
あの日の朝、かずさが心配していた事態が今、まさに目の前にある。
痴漢=単独犯だとの先入観が招いた事とはいえ、由芽はまだ自分が間違いを犯したとは思ってはいなかった。