異母姉妹-1
1991年3月24日は日曜日だった。ジャッキーの父親が戦死して1カ月が過ぎた。俺は、ジャッキーに父親の遺品の整理を手伝って欲しいと言われ、彼女の実家を朝10時くらいに訪れた。家の中にはジャッキーしかいなかった。
片付け始めて小一時間ほどした時、玄関の呼鈴が鳴った。俺が出ると、戸口に軍服姿の華恋が立っていた。
俺は驚くと同時に、どう反応したらいいか分からず、ただ呆然と立ち竦んだ。
最初、彼女は俺以上に驚愕した様子で「どうして、きみがここに。。。。」と何かを言いかけたが、途中で口を噤み、「その件は、あと」とそっと俺に囁いた。そして、華恋は大きな声で叫んだ。
“Anybody home? I need to talk to someone who knows Jeffrey Clifford!(誰かいますか?ジェフリー・クリフォードを知る人物と話しがしたい。)”
すると、奥からジャッキーが出てきて、落ち着いた口調で言った。
“You must be Miss Karen Jahana. I’m Jackie Clifford, your half-sister. I’ve been waiting for you to show up before me. Would you mind stepping in to pay tribute to my father? (謝花華恋さんですね。私は、ジャッキー・クリフォード、あなたの腹違いの姉です。あなたが私の前に現れるのをずっと待っていました。どうぞ、中に入って、父に会ってやってくださいな。)”
リビングの暖炉の上には、ジェニファーの写真の隣に、家族に囲まれて優しく微笑むジェフリーの遺影が架けられていた。
華恋は、その写真を見てうつむいた。そして、「こんなの反則だろ。。。散々、お母さんの人生を弄んでおいて、その落とし前もつけずに、私に看取られて1人で勝手に逝っただなんて、あんたズル過ぎるよ。。。」と華恋はポツリと日本語でつぶやき、肩を震わせた。
“There’s something I want to show you.(あなたに見せたいものがあるの。)”とジャッキー言って、2冊のアルバムと、箱を華恋の前に置いた。
そのアルバムには、若き日のジェフリーと1人の日本人女性を写した多くの写真が整理されていた。写真の中の2人はとても幸福そうに見えた。
それを見た華恋の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
ジャッキーは、ハンカチと箱を華恋に差し出して言った。 ”You’ll find in there many letters he received from your mother and many more ones he wrote to her. Some of them were returned due to a wrong address, and others weren’t sent for some reasons. (その箱の中には、父があなたのお母さまから受け取った手紙や、父があなたのお母さまに宛てて書いた手紙が入っているわ。父の手紙は、住所不明で返ってきたものや、書いたけど、なんらかの理由で投函されなかったものよ。)”
ジャッキーは、一呼吸おいてから「あなたのお母さまと私の父が愛し合っていたからこそ、あなたが、こうして、生まれきたことを忘れないで。You were born to be a blessed child, Karen.(カレン、あなたは祝福されて生まれた子どもなのよ)」と日本語と英語で優しく華恋に語り掛けた。
“God damn it....I was born to be cursed. (畜生。。。私は呪われて生まれてきた。)そうでなかったら、どうして、私とお母さんはあんなに苦しまなければならなかったの?”と吐き捨てるように言うと、華恋は玄関の扉に向かって走り出した。
「華恋さん! 待って!!」俺は、とっさに華恋の進路を塞ぎ、彼女を制止しようとした。
しかし、華恋は、涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔を見られないように、俺を全力で振り切って外に飛び出した。彼女は通りの向かい側に駐車した軍用車両へと走った。俺は華恋の背中を夢中で、追いかけた。
その時、俺の左側からキイィィーとタイヤが軋む音と、けたたましいクラクションが聞こえ、俺の視界が真っ白になった。