想[3]-2
「主里ぃ、ごーめーん!」
校門の外で暁寿が私を呼んだ。
「遅いよ!私どれだけ待ったと思って…」
「まじごめん!先生に呼び出されて…まさか7時になるなんて」
「7時?」
私はブレザーのポケットからケータイを取り出して時計を見た。
…本当だ。あと数分で7時になる。私がさっき時計を見たときは6時だったのに…。
「ねぇねぇ、さっき1時間くらい名屋君と話してんだぁ」なんてこと、暁寿には言わないでおこう。直感で言わないほうがいいと思った。
名屋君と話していてすごく楽しかったし、嬉しかった。それが逆に暁寿に対して罪悪感があって、すごく後ろめたい気持ちになった。私たちは何もしてないんだから後ろめたくなる必要は無いのに…どうしてだろう?
名屋君が私の中で『アイドル』から『同級生』に変わりつつあるなんて考えもしなかった。
「まじで!?首里羨まし過ぎぃー!!あの鋼吾君とお話ししちゃったのっ!?かぁー、あんたも隅に置けないねぇー」
次の日、教室で私は昨日のことを未宇に話した。
「うん…。でも少しだけだよ?」
「少しっつってもさぁ」
未宇は綺麗にカールされた睫毛にマスカラを塗り始めた。
「なかなか無いって、そんな体験。あの人、あんま女と喋らないって噂だし」
未宇はいつもマスカラを二度塗りする。パチパチ瞬きをすると、ブラシを容器に戻し何度か出し入れしてから、また鏡に向かった。
「うーん、確かに無愛想だったかも。私嫌われてんのかな?」
「嫌ってたら話し掛けたりするわけ無いでしょ?」
そう言ってマスカラをポーチにしまうと、今度は淡いピンクのチークを取り出した。
「嫌われてるとか好かれてるとかそんなことより、話せて良かったじゃん。自分を差し置いて…」
「差し置いてって…別にそんなつもりじゃないけどさぁー」
「わかってるわかってる」
頬がピンク色に染まった未宇はチークをしまい、今度はベージュ系で自然な色のグロスを取り出す。これは学校用で、休みの日は明るいオレンジのグロスを付けていた。
「その代わり」
「どの代わり?」
「今日付き合ってよ」
無視ですか…。
「パフェ食べ行くの!」
「パフェ??」
セクシーに潤う唇で未宇は続けた。
「駅前にね、新しいカフェオープンしたの!で、そこのショウウィンドウにおいっっしそうなパフェ飾られてたの!!食べたくて食べたくて…だから行こっ!!」
「パフェ…行く!」
未宇は嬉しそうにニッと笑うと「じゃ、今日の放課後ね」とグロスをしまいポーチを鞄に戻したが、また取り出して私に差し出した。
「主里もする?」
「私はいいよ」
「そう」
今度こそ本当にポーチをしまった。
丁度その時、チャイムが鳴った。
「後でねっ!」
そう言って私に手を振り自分の席に戻っていった。