自覚と責任-9
若菜は総監室にて一人で考え込んでいた。それはもちろん副総監、片山慎二の事であった。ただ片山が警察を裏切り何か事件を起こそうと企んでいるようにはどうしても思えなかった。静かなる威圧感は感じるが、紳士的で感情に起伏のないタイプである。紳士的で物分かりもいい、むしろ頼りになる人間だ。ただしマギーの指摘の通り警察関連施設への納品業者は最終的に片山の裁量になる。目立からの納品を控え横芝からの納品に切り替える事ぐらいは容易い事だ。
ただしそれ自体は別に何の問題もない。そこには価格競争があり、正規の手段を踏んで横芝が目立に勝ったのかも知れないし、意図的に横芝からの納品を優先したところで、裏金さえ貰っていなければ何の問題もない。ただの偶然ならいいが、これが木田康介の長い時間をかけた復讐劇とするならば、あと一歩でフィナーレを迎えようとしている所でのつまづきなどあり得るだろうか…、それを考えていた。
「片山さんか…。ちょっと洗ってみるか…」
若菜はスマホをとり東京の神田彩香に電話をかける。
「彩香ちゃん?今大丈夫??オナ中?」
「ひ、昼間っからしてませんし!で、どうかしましたか??」
「うん、あのね…、これはトップシークレットで調べて欲しいんだけど、副総監の片山さんの身辺をちょっとね。」
「副総監を、ですか…?」
「うん。今日の夜、本庁に残っていられる?」
「はい、大丈夫です。22時頃ですよね?上原さんが来るの。」
「もっと早く行けそうかな。これからはマギーがしっかりとこっちの事をしてくれそうだから、早めに切り上げられそうなの。」
彩香の声が変わる。
「マギー様が…ですか♪?」
若菜はしまったと思った。何故なら彩香はマギーの熱狂的なファンだからだ。マギーの話をするとあれこれしつこく、正直ウザい。若菜は電話をしながら頭をかいた。
「いつになったらマギー様と会わせてくれるんですか?」
「そ、そのうちね…」
「いつもそのうちそのうちって…、もう我慢出来ないんですけど??」
「ちっ…」
「あ、今、ちって言いました!?」
「言ってないわよ!いーい?ちゃんと調べとくように!!」
「あ、ちょっと…うえは…」
若菜は途中で電話を切ってしまった。
「ったく。優秀なんだけどマギーの事になると超ウザいわね、もう!」
彩香はもしかしてマギーをネタにオナニーしてるのではないかと思う程のマギー信者なのであった。
「どうも私って部下甘く見られてるわね…。でもマギー人気は高いわね。フフッ」
どこか嬉しそうな若菜であった。