香織と亜里沙の対立-1
ある晴れた日曜日の昼下がり。野外での午前中の撮影を終えケイは鶴ヶ峰城敷地内にある茶店で一人お茶を飲んでいた。
「はぁぁ、やっぱりここは落ち着くなぁ」
完全にリラックスしてるケイは大きく深呼吸をしてすぐ横の皿にある草団子を手にした時、ケイは我が目を疑うような信じられない光景を目の当たりにしたのだった。
一瞬錯覚かと思ったが、自分の視界にいる女の子の姿があまりにもケイである自分そっくりだった事にケイはそのまま動けなくなってしまったのだ。
「ま……まじかよ……」
ケイは呆然としたまま自分そっくりの女の子を見つめていると、その女の子の後ろから奈津ねぇが走ってきていきなりその子の腕を掴むと有無を言わさず連れ去ろうとしたのだった。
いきなり見ず知らずの女性に腕を掴まれ連れ去られそうになった自分そっくりの女の子は何やら奈津ねぇと口論をしていたが、その甲斐も空しくそのまま奈津ねぇに連れ去られてしまった。
「って、呆然と眺めてる場合じゃないって」
ケイは徐に立ち上がり勘定を済ませると走って撮影現場に戻っていった。
「だから違うって言ったじゃないですか！！」
撮影場所に急いで戻るといきなり聞き覚えのない女の子の大声が耳に響いてきた。
「いやぁ、ホントにゴメンね〜。マジでケイにそっくりだったし私も急いでたからねぇ」
この声の主は奈津ねぇに違いない。しかし、謝るにしてももうちょっと誠意を出しても良いんじゃないか？表情も全然悪びれた様子もないので平謝りにもならないぞ。
そんな奈津ねぇの様子に俺そっくりの女の子は更に機嫌を悪くしたみたいだった。
「本当に悪いと思ってるんですか貴女はっ！！」
女の子は怒りを露にして奈津ねぇに詰め寄るが当の奈津ねぇはそんな彼女の態度にも全然怯む事無くヘラヘラとしていた。
ヤバい…このままじゃ完全に泥沼だ。
そんな事を思った俺は死地に赴く心境で二人の間に割って入ったのだった。
「奈津ねぇ！一般の人に迷惑かけちゃダメじゃない！」
「おーっ！ケイ、丁度いいところに来たわね。ちょっとアンタこっちに立ってみてくれる」
奈津ねぇ相手に俺が入ったところでなんとかなる訳でもなく、逆に俺が来た事で返って奈津ねぇを喜ばせてしまったようだ。
そして奈津ねぇは嬉々として俺を不機嫌な彼女の横に並べたのだった。
「おおーっ！！」
俺と彼女が並んだ事で他のスタッフが驚きの声を上げると同時に俺達二人はお互いの顔をマジマジと見入ってしまった。
「これはザ・ピーナッツ！？」
訳のわからない事を言う奈津ねぇであった。あんた一体いつの生まれだよ…。てか、ザ・ピーナッツって誰？
自分そっくりな女の子の顔を見ながらそんな事を俺が考えていたが、彼女に謝るという当初の目的を思い出しとっさに言葉にした。
「今日は奈津ねぇが迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。ええっと……」
「……片桐亜里沙…。別に貴女に謝ってもらう義理はないんだけど、そうね私が貴女にそっくりってだけでかなり迷惑してる事は事実だからその言葉は素直に受け取っておくわ」
片桐亜里沙と名乗る少女はぷいっと不機嫌そうな顔を逸らし、呆然と立ち尽くす俺に背を向けてそのまま歩いていってしまった。
これが俺と瓜二つの少女、片桐亜里沙と最初の出会いであった。