罪と罰-6
いくら攻撃を仕掛けてもかわされてしまう黒田は次第に苛立って来る。
殆ど自分の攻撃をかわすだけで攻めて来ない若菜にもフラストレーションが溜まっているようだ。ここで黒田は暴挙に出る。
「ぅらっ!」
両手を伸ばして何と若菜の胸を鷲掴みしてきた。大抵の女はここで動揺して怯むものだ。黒田は若菜の胸をグニュグニュッと揉む。
「いーオッパイしてんな!たまらんぜ!」
動きが止まった若菜の背後に回り込み、瞬時に羽交い締めにする。
「あ、まずい!」
華英は思わずそう口にしたが、石山は平然としている。
「あれがまずい状況の女の顔かよ?」
「え?」
華英が若菜の顔を見ると涼しげな顔をしている。何故あの状況で若菜があんな冷静でいられるのか分からなかった。
「わざと背後を取らせたんだよ。」
「え…?」
華英が覆面男達に襲われた時、同じように羽交い締めにされたが、その時はもう何も出来なかった。もうダメだ、ヤられる…、そんな危機感しかなかった。若菜だって同じだろう。力のありそうな黒田に羽交い締めにされまずい状況にしか見えなかった。
「あいつはあんな状況になった時、いかにして回避するかも熟知している。見てろ。」
華英は若菜がどんな行動を取るのかじっと見つめる。
「ほら、何も出来ないだろ?へへへ」
黒田は若菜の首背に顔を寄せていやらしく囁いた。
「あなた、馬鹿なの?いや、馬鹿なのね、きっと。」
溜息を吐きながら言った。
「な、何だと?」
「だいたいさー、これで私の動きは封じ込めたかも知れないけど、一体どうやって私に攻撃するの?味方がいればまだしもあなた1人でさぁ。」
「…チッ!ぶっ殺してやる!」
やはり馬鹿なのであろう。何も考えていなかったようだ。加えて殺してやると言う一言が若菜にスィッチを入れた。
「それにオッパイ掴まれて私がキャッとでも言うと思った??そんな可愛子ちゃんじゃないわよ、私は。まぁ可愛いけど♪」
「何をふざけた事言ってんだ!?どっちにしろ何もできないだろ!」
「出来るわよ。一瞬にしてあなたを床に沈めてあげようか?」
「やれるものならやってみろ!!」
「じゃ、遠慮なく。」
そう言うや否や、若菜は黒田の髪を掴み思い切り引っ張る。
「ぐっ!」
苦痛に歪む黒田の顔。そしてすぐさまハイヒールで足の甲を思い切り踏みつけた。
「んあっ…!」
激痛に怯んだ黒田の羽交い締めが解かれたと同時に、みぞおちに肘鉄を喰らわす若菜。
「うっ…」
体を反転させた若菜はくの字になった黒田の顎に膝蹴りを喰らわす。
「ぐあっ…!」
くの字からピンと伸びた黒田の体。仕上げは強烈なタマ蹴りだった。
「ぎゃあっっ!!」
おぞましい音が華英にも聞こえた。
「あ…、あ…」
黒田の目が虚になり、力なく床に倒れ、そして泡を吹いていた。
「やめらんないかも、これ♪」
若菜は涼しげな顔でタマ蹴りの余韻に浸っていたのであった。一瞬の出来事に華英は呆気にとられてしまった。