急展開-4
もう忘れた方がいいのではないか、瀬奈を思うと自分が自分らしくいられなくなる自分にも気付いていた。いや、わざと変人ぶって本当の自分を表に出さずに生きてきた自分を曝け出しそうで怖かった。両親が他界し、人に情けをかけられたり弱みを見られるのが嫌で必要以上に明るく振る舞い生きてきた。両親の葬儀の後、家で1人、一生分の涙を流した。俺にはもう涙は残っていない、そう思っていたが、全身包帯で巻かれた瀬奈を見た時に、まだ涙を使い果たしていない事に気付かされた。涙がある以上、変人でいられる自身も少し揺らいだ。
康平から瀬奈がこっちに向かっているかもしれないと電話があった時、自分の中で瀬奈を忘れるべきか、それとも忘れる必要はないのか散々悩んでいた自分の気持ちの中のモヤモヤが消えた。瀬奈をこの手で抱きしめたい…そう思った。未だ体に残る瀬奈の温もりは消して海斗の体から離れる事はなかった。全てが愛おしく感じた。
ソファに座り、しかし落ち着かず窓際に立ち外を気にする海斗。それでも気になり表へ出て暗闇の中からひょっこりと瀬奈が現れるのではないかと思いずっと待っていた。もう来るのではないかと思うと他のことが手につかず、ずっと瀬奈を待っていた。
何度か康平から電話があった。東京までは来れたがこっちまでくる手段がなく、明日の朝一番に向かうとの事だった。そしてその朝がやって来る。いつしか夜は明けてしまった。良く釣りでこの瞬間は迎えるが、釣りなら、よし、今日もいっぱい釣るぞ!と言う希望に満ち溢れた瞬間だ。しかし今は違う。本当に瀬奈は来るのか…、そんな不安が生まれて来た。
「瀬奈にとっての竜宮城って、本当に俺の事なのか…?」
やはり不安になってきた。もし自分の所ではなく全く別の場所に瀬奈が向かっていたならば、瀬奈は完全に失踪した事になるし、何だかもう一生会えないような気がした。こんな不安に塗れた夜明けは初めてであった。
「頼むよ、瀬奈…、俺の元へ来てくれよ…」
登り始めた朝日に向かい願いを込める海斗であった。
朝日も登り始め、朝の6時になった。快晴の雲一つない清々しい朝だ。海斗は何故か瀬奈と初めて出会った、今日とは対照的なあの荒れ狂う海を思い出した。あの海の中から瀬奈と巡り合えたのは奇跡としか言いようがない。あの奇跡に比べたら、瀬奈がここに来る確率の方がよっぽど高いと自分に言い聞かせながら、海斗は瀬奈を待っていた。