Q恵美の逆襲-1
今日は顧問弁護士契約を解除されるだろう。
しかし後悔はしていなかった。むしろ手の届かなかった美人と対等に渡り合った己を誉めてやりたい気持ちだ。
明らかに恵美さんは感じていた。高貴に思っていたセレブが身近に感じられた。
松田建設へ向かう電車の中で昨日帰る間際に聞いた会話を思い出していた。
「恵美の提案で招待した・・・・」何度考えても思い当たることはないのだ。
田所部長はもう還暦だ。40歳の女盛りの恵美さんを満足させることは出来ないだろう。
ならばもう三年以上レスに近いはずだ。欲求不満で僕を誘った?
いや、それなら昨日の様に激しく抵抗しないはずだ。
やはりめくら判以外考えられない。しかしそれはどう考えても弱みに思うほどのミスではない。
真っ先に秘書室に向かい田所室長に面会した。
直ちに昨夜の非礼をなじり顧問は首だと罵られると思っていたが頬を赤らめ視線を外したのだ。
探りを入れてみた。「僕、専務の不正を暴いて以後何の成果も得られていないんです。
営業部の彼の事を報告して少しでも成果を上げたいんですが駄目でしょうか?」
「小さな問題だから報告の必要なし。」と言っていたのが
「主人のミスになるから報告しないようにお願いするわ。」に変わった。
その時社長とのホットラインが鳴った。
そっと恵美さんの後ろへ回り抱きすくめ首筋に唇をはわせた。
身体をよじり乍らも明るい声で話し続ける。
「はい。お見えになるのは午前10時です。12時からは葬儀に出席して頂きます。」
今日のスケジュールについての問い合わせのようだ。
ブラウスのボタンを一つ外し手のひらを滑り込ませる。
キッと睨みつけながらも声のトーンは上がっていく。
「いえ、大丈夫です。ちょっと喉の調子が悪いようです。」
首筋で唇が、乳首で指先がうごめく。
「ハァ〜。はい。調べて折り返します。」電話を切ったとたん椅子を蹴って秘書室の外へ逃げる。
あのプライド高い恵美さんが怒りを抑えている。
翌日から秘書室には必ず山本早織課長が同席するようになった。
廊下ですれ違いざま尻を撫ぜたり胸に触れたりして楽しんだ。
小声で「嫌っ」とか「止めてっ」とか言って睨みつけるが怒りの言葉は抑えている。
今日は朝から取締役会で秘書室に恵美さんの姿はない。
明日は決行するつもりだ。根拠はなかったが自信にあふれていた。
先ほどディナーを予約し一部屋をキープしたところだ。
そして会議中の恵美さんにその旨LINEした。
昼になって既読のなったが何にも言ってこない。
嫌ならクレームの返信があるはずだ。
明日の甘い時間を想像し下半身が熱くなるのを感じた。
早々と帰宅し麻沙美を抱いたが明日のためにエネルギーを温存した。
何度もしゃぶらせバイブで十分に対処した後に挿入したが精は放たなかった。
健太郎は数年ぶりに朝立ちを経験した。
それも自分でもほれぼれするような凄い勃起だ。
真っ先に秘書室に飛び込んだ。今夜の約束を確認させるためだ。
山本課長が言った。「あなた、田所室長の逆鱗に触れたようね。今応接室で弁護士と会っているわ。
あなたのセクハラで精神的苦痛を感じたようですよ。」
「僕も弁護士のはしくれだから分かるんだがセクハラの立証は難しいよ。」
「いえ、私室長に命じられてその瞬間を撮影しているのよ。」
その時、恵美さんが戻ってきた。昨日までとは違う鬼のような目力だ。
「昨日までの非礼の数々もう我慢の限界です。絶対に許しませんからね。
今、当社の顧問弁護士がセクハラで告訴するための書類を作成しているわ。
それとあなたとの顧問契約は即刻解除するつもりだったけど社長の恩情で月末までよ。」
「ちょっと待って下さい。昨日までの従順な態度は何だったんですか。
急に手のひらを返されたら困ります。」
「別に従順だったわけじゃないわ。余計なもめ事を避けただけよ。
それと今後、秘書室への入室は禁じます。二度と私の前に顔を出さないで。」
以前の毅然とした態度に戻りヒールの音を響かせながら秘書室を出て行った。
がっくりとうなだれていた時、山本早織課長が笑いながら話だした。
「あなた、田所室長を狙っていたの。馬鹿ね。絶好のチャンスだったのに。
昨日の取締役会で田所部長は専務に昇格したわ。
社長の提案で全会一致だったようよ。
いやライバルだった取締役総務部長を除いてはね。
今回の事は10日前から決まっていたの。
室長は社長から10日間寸分のミスも許されないよ。と釘を刺されていたのね。
社長が厳しい人だってことはあなたも知ってるわよね。
こんな時にめくら判の事が表に出てごらんなさい。
間違いなく専務の椅子は総務部長に回ったはずよ。
年齢的にも田所さんにとって最後のチャンスだったはずよ。」
「そうだったのか。今からでも遅くはない。専務の座から引きずりおろしてやる。」
「ふふふ、それは無理よ。取締役会が任命責任を問われるようなことをする訳がないわ。
社長だって同じよ。めくら判の事もちょっとした不注意で片付けられるに決まってる。」
「くそっ。女狐め。」悔しがったが後の祭りだ。