投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

陽炎の渓谷
【寝とり/寝取られ 官能小説】

陽炎の渓谷の最初へ 陽炎の渓谷 13 陽炎の渓谷 15 陽炎の渓谷の最後へ

炎上-2

 トントン。
 ドアをノックする音がして、玲奈が入ってきた。自宅で開いているピアノ教室が終わってから合流したのだ。
「うわ、綺麗な人。奥さんですか?」
 玲奈の目が冷たく光った。
「はい、玲奈と申します」
 麗華は玲奈をじっと見つめた。
「やっぱりちゃんとした人の奥さんはちゃんとしてるなあ」

 帰り道の車の中。
「可愛い子じゃない」
「そうだね。荒れた感じにはなってるけど、元々は素直な子だと思うよ」
「あんなに酷い煽り方をしてきたのに?」
「それについては弁護のしようが無い。あれは絶対ダメだ。でもね、彼女自身は……」
「ずいぶん肩を持つのね」
「思ったことを言ってるだけだよ」
「気に入ったの?」
「は?」
「可愛くて素直なんでしょ」
「何言ってるの、そういうんじゃないよ」
「私よりずいぶん若いし」
「なんだよそれ」
 気まずい空気を振り払うため、ステレオに伸ばしかけた手を幸弘は途中で止めた。
「大丈夫よ、気にしないで掛けてよ」
 玲奈はそう言ったが、幸弘は音楽を掛ける気になれなかった。
 不動産屋の江島に騙され、欲情してしまった玲奈は、屋外の駐車場だというのに自分で絶頂した。しかもそのあと、幸広に見られると知りながら、自ら体を与えるかのように江島と交わったのだ。
「まあとにかくだ、人間一人、命が助かったのはいいことじゃないか」
「もしかしたら何人も死んでたかも知れないけどね、彼女の無謀な運転のせいで」
 玲奈はどうしても麗華が気に入らないらしい。幸弘がかばうのも面白くないようだ。
 嫉妬されるのは悪い気はしないが、あまりしつこいと嫌になる。
「ねえ、レッスン場のことだけど」
 幸弘は話題を変えた。
「早く不動産屋を探さなきゃね」
「それならもう決まってるじゃない」
「な……まさか江島の事を言ってるのか?」
「そうよ。江島さんに探してもらいましょうよ」
「あんなことがあったのにか?」
「あら、妬いてるの? 私があの人とそういうことがあったから」
「当たり前じゃないか!」
 玲奈はムっとした顔になった。
「大きな声出さないでよ。あなたに見せる、っていうから私は応じたのよ。で、どうだったの? あの頃みたいに興奮した?」
「それを聞いてどうするんだよ」
「答えられないの? もう私が他の男に抱かれても興奮しなくなったのね。あの子ならどうなの?」
「いいかげんにしろ」
「なんで怒るのよ」
 幸弘は深呼吸して気持ちを静めた。このままでは自分が事故を起こしかねないと思ったから。
「……分かった。江島に任せよう」
「あら、私、またあの人に抱かれるかもよ」
「いいさ」
 玲奈は大きく息を吸い込み、窓の外に目を向けながら吐き出した。
「そうよね、もういいのよね。私が誰に抱かれようと構わないし、誰に抱かれようと興奮もしない」
 無言でハンドルを握る幸弘に、玲奈が呟いた。
「……あの頃が、懐かしいわ。私が加際先生に抱かれて、あなたはそれを見て興奮してた。私はそんなあなたを見て欲情して乱れた。もうあんな日々は帰ってこないのかしら」
 幸弘が呟き返した。
「……帰ってきたらどうする?」
「え?」
「もしも、加際先生が戻ってきたら、さ」
 玲奈は眉を寄せて幸弘の横顔を見つめた。その唇の端がピクリ、と引きつったのを、幸弘は見ていなかった。


陽炎の渓谷の最初へ 陽炎の渓谷 13 陽炎の渓谷 15 陽炎の渓谷の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前