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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-3

それを黙って見逃すほど俺は優しくない。
愚かにも背を見せた奴等にボウガンを放つ。
奴等が物言わなくなったのを確認してからふと辺りを見回せば、この辺りの敵は殆どいなくなっていた。
俺は馬で再び先の騎士の元へ向かう。
命を助けてやったんだ。駄賃くらいはくれるだろう。
そいつの前で止まると、俺は馬から降りる。すると、そいつは俺の目の前で冑を取った。
ばさりと冑から流れるは黄金の流れ。琥珀の鋭い瞳は俺を睨め付けていた。
俺は見覚えのあるその瞳に顔を歪める。
「礼は言うぞ、ガルム・ヴィクセル」
俺の名前を知っていたそいつは、女。
それからそのとび切りの美人は俺の目の前まで歩み寄ると、いきなり平手打ちをかましてくれた。
「貴様、ガルシア国側でありながら、戦う意思のない者をむやみに殺めるとは許さんぞ」

……そんなことを言ったって、此処は戦場だ。
奴等がもし逃げた振りをしていただけだったら、どうするってんだ。
腫れた右頬を押さえながら、その日俺は釈然としないまま仲間の元へと向かったのだった。
そして後に、女――レイチェル・ギルガが第三傭兵団を指揮することになることを知った時には、俺は思わずこめかみを押さえてしまった。


「どうして女が戦場にいるんだ?」
七月も下旬の蒸し暑い日。
傭兵達が集うベルハイムの酒場で、俺は薄い酒を呷りながら文句をたれていた。
傍らのドグは既に赤ら顔で言う。
「まあ、気にすんな。金が貰えればそれでいいさ」
「それによ、すんげえ美人だって言うじゃねえか。楽しみだな」
同じく赤ら顔で言ったのは、ハウンズ傭兵団のひとりであるアーソだ。
でかい図体したこいつは、今回の戦いでかなりの功績を残した。
今まであまり良い目では見られていなかったハウンズ傭兵団だが、バージルのおかげでその株はかなり上がったようだった。
「美人ねえ……気に食わないね」
言ったのは同じくハウンズ傭兵団のひとり、紅一点のシアン。
女だてらに俺達と戦場に立つこいつを、俺は女と思っちゃいねえ。
力もあれば、剣も振れる。頼れる仲間のひとりだ。
「妬いてんのか?」などと軽口を言うアーソに、シアンは「別に」と素っ気なく答える。
シアンは幾人かのハウンズ傭兵団員といい仲だったりしていて、そう言う意味でもハウンズには不可欠だとアーソは言っている。
それも、シアンを女として考えていない俺には関係ない話だがな。
「美人、か。お飾りってだけなら勘弁だな」
ドグが言って、グラスを空にした。俺は新たなボトルを奴の前に置いて、頷いた。
「美人でもそうでなくとも、今の騎士団なんざお飾りみたいなもの……」
俺が、言いかけて言葉を切ったのは、酒場が異様な程ざわめいたからだ。
ざわめきの中心にいた人物を眼に捉え、俺は思わず顔を顰める。

「第三傭兵団がいると聞いてやって来た。該当する者は顔を上げい」
俺の耳を劈く、女の声。
思わず顔を上げた俺はそいつと目が合ってしまった。
きつい琥珀の瞳が俺の黒い瞳を見据える。
騎士長レイチェル・ギルガはつかつかと俺達のテーブルに歩み寄って来た。
俺の目の前で足を止め一瞥してから、そいつはドグとアーソの間に腰を下ろした。
歩く度に揺れる金髪が、ちらちらと俺の視界に入る。
くそったれ、見ないようにしているのに。
「お前達が第三……いや、ハウンズ傭兵団だな」
レイチェルが言うと、ドグとアーソがこくこくと頷く。
「私はレイチェル・ギルガ。ガルシア国軍の騎士長を務めている」
「ぞ、存じておりますッ! 次の戦いでは、俺等の指揮をなさるとかッ!?」
声が裏返りながら言うアーソの脇腹を、面白くなさそうにシアンが突いた。
「情報が早いな。その通りだ。それで今日、お前達に顔を見せに来たのだ。歓迎してくれるな?」
「勿論です!」とドグとアーソ。
笑みを浮かべ、レイチェルは俺に視線を移す。
また、目が合ってしまった。
俺は視線をそらし、小さく舌打ちをする。


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